迷子のゲームソフトを案ずる国

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金曜日。日経新聞に気になる見出しがあった。

 

 

「迷子」ゲーム 持ち主やーい

 

 

記事の大筋はこうだ。関 純治さんはファミコンソフトの収集家。かつて全ソフトコンプリートをめざしていたが、お金さえかければそのうち達成できてしまう将来が見えてしまう。そんなときに出会ったのが、手書きの名前入りのカセット。これが"一点モノ"の宝物であることに気づき収集を始める。現在は1000本近くを所蔵し、HPで情報を公開。本来の持ち主が現れれば返還する活動を展開している。

 

・・・

この記事に俺はひっそりと静かな感動を覚えた。

 

昔、友だちの家に遊びにいったら確かによくあった。「まつだ ゆうすけ」ってマジックで直書きしたゲームソフト。ソフトに名前が書いてあると、中古市場での価値は下がる。当然である。買った人にとっては単なる落書きか、もっと言えばかつて他人が使っていたことを主張する、生々しい痕跡なのだから。

 

でもこの人は、価値が下がるところに、価値を見出している。誰が見ても無価値というものでも、当の「まつだ ゆうすけ」にとっては価値があるはずなのだ。ゲームソフトに興奮した時間や、一緒に遊んだり友だちの記憶を内包する、貴重な思い出の品なのだ。こういう発想の転換ができる人は心底、素晴らしいと思う。

 

ところでこの返還活動。世の役に立つ仕事かというと、微妙な当落線上にある。もちろん害をもたらすことはないが、取り立てて社会的意義があるとも言えない。強いていえば、「ギリ役に立つ」くらいだろうか。

 

ポケモンスタジアム金銀」(NINTENDO64)は元の持ち主の兄から連絡をもらい、確かに弟のものだったと確認できた。ただコンボイポケモンも「ゲーム機本体がないので要りません」。そもそも要らなくなったから手放したケースが大半のようで……。(記事より)

 

実際、記事の中でも、今のところあまり役に立っていないさまが正直につづられている。でもきっとこの人は、ある程度のムダをよしとしながら明るく前向きに取り組んでいるのだろう。大勢の人に届かなくてもいい。たくさんのムダの末に、いつか奇跡的な再会があればいい。そんな風に考えているのではないか。

 

役に立たないことに堂々と取り組める世の中はいいものだ。ムダな遊びは、社会に余裕があるかどうかのバロメータの一つかもしれない。一方で世界はいま着実に余裕を失っているわけだけど、余裕がなくなりつつあるこの世界に抗うべく、俺もギリギリ役に立たないことにゆるく挑戦し、情報発信していきたい所存である。

 

ちなみに日経新聞の最終面の文化欄は、定期的にへんな人を発掘してくるのですごい。ドールハウスをつくるおじさんとか、航空会社のノベルティを集めまくるおじさんとか。日本を代表する経済新聞が、商業価値を失ったゲームソフトの話をこれからもしてくれるようなら、案外まだなんとかなるのかな。

 

 

名前入りカセット博物館

https://bonusstage.net/famicassearch/index.php

 

猫が賛助出演して気に入る

はてなブログを本格的に始めて約2か月が経つ(開設からはもっと経つ)。楽しかった経験を忘れないために。自分の好きなものごとを誰かに知ってもらうために。ぽつりぽつりと文書をつむいでいる。人さまの役には立たない。つかみどころがない。脈絡がない。ないないづくしの記事ばかりを書いている。

 

ただそんな文章でも気まぐれに読んでくれる人がいて、とてもありがたいことである。なかでも中央アジアの料理を題材にした記事は、思いがけずたくさんの人に読んでもらえることになった。

 

nadegata226.hatenadiary.jp

 

各種のSNSはてなブックマークに寄せられたコメントは、可能な限り目を通すようにしている。俺の大好きな中央アジアに興味を持ってくれたような意見も多くあり、非常に嬉しい思いであった。さてその中に一つ気になるものを見つけた。

 

 

 

 

 

「고양이가 찬조출연해서 맘에 든다」

 

 

 

ハングル。これは何と言っているのだろう。両国関係の難しいこのご時世である。まさかこんな毒にも薬にもならない記事に悪意のコメントとは考えにくいが、気にはなる。気になるし、正直に言ってその内容を知ることに少しだけ怖い気持ちもある。わざわざ日本語で書かれた記事に向けて、この人が言いたかったことは何なのだろう。意を決してGoogle翻訳にかける。

 

 

 

 

 

 

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猫が賛助出演して気に入る。

 

 

 

 

 

なにこのフレーズ、最高か。なんというか、シンプルな言葉の中にとてつもなく強烈なフックが利いている。「賛助出演」は、意味は推測できるもののあまり聞きなれない言葉だ。固くて事務的、形式的な雰囲気を感じる。なのに、賛助出演しているのは猫。ゆるい。流れをブチ切ってゆるすぎる。言葉の緩急である。全盛期の星野伸之スローカーブを見せられたかのごとく、俺のスイングは大きく空を切る。そして後半の「気に入る」。こなれた日本語なら、ここは間違いなく「気に入った」である。だが敢えての「気に入る」。この言葉遣いに、俺は強い肯定の意思を感じた。ただ単に私が気に入ったというのではない。この世の必然として。あるいは森羅万象の理として。猫が賛助出演していることは「気に入る」ものだと言い切っている。まるで神託のような、そんな力強い断定のニュアンスを感じ取った。

 

改めて、「猫が賛助出演して気に入る」。なんと情緒あるコメントであることか。恐ろしいまでに非凡な翻訳センス。まさに声に出して読みたい日本語。

 

できることなら。俺はこのフレーズが世の中に根づいてほしいと思っている。俺が思うに、日常生活において「猫が賛助出演して気に入る」としか表現しえない事柄は、たまに存在すると思うのだ。

 

例えば俺の家から最寄りのスーパーまでは50mである。近いし遅くまで営業しているので、大いに頼りにしている。ただ俺はたまに150m離れたコンビニまで行く。理由は、こっちの駐車場にはたまに猫がたむろしているからだ。値段は高いし品揃えもスーパーに劣るが、猫がいるかもしれないからコンビニに行くのだ。このような状況をどう表現するべきか。「俺は猫が好きだからコンビニに行く」。もちろん情報としては正しい。ただグッとこない。わざわざ経済原理に沿わない行動をとる、心の機微が感じ取れない。そこで「コンビニに猫が賛助出演して気に入る」である。ほら、情緒が爆発している。エモーションがスパークしている。ネコ好きの皆様におかれましてはぜひ、的確な状況を見つけたらこのフレーズを使ってもらいたい。

 

結びに。この記事でも、中央アジアで出会った猫が賛助出演する。気に入る。

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厳戒態勢の午後には、優雅な紅茶を

少し前のことになるが、6月末に大阪でG20サミットが行われた。関西以外の人にとってはすでに「ああ、なんかそんなのあった…かな」くらい忘却の彼方だろうが、現地に住む人間にとってはそれなりにビッグイベントであった。開催の数日前から敷かれた厳重な警備体制は非日常そのもので、家から通勤するまでの間にもたくさんの警官が立哨。地元関西だけでは人手が足りず、全国の警官が協力して警備に当たる姿も物珍しかった。俺の通勤経路は神奈川県警、千葉県警群馬県警岐阜県警石川県警という布陣で、ヒーロー大集合モノの映画みたいだなと思っていた。

 

さて本題である。かような警戒ムードのなか、会議当日に俺は何をしていたか。正解は、厳戒態勢の帝国ホテルにのこのこ出向いて、優雅にアフタヌーンティーをキメていた。です。

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6月29日。土曜日。最寄駅で降りると、すでに空気がものものしい。トランプはじめ米国首脳が宿泊する帝国ホテルは、重点警備施設の一つ。建物の前の車寄せから、黄色い警戒線がぐるぐる巻き。警察官だってそこら中に歩いている。どう見たって一般の客が気軽に中に入れる雰囲気ではない。しかしここは敢えて正面突破を試みる。

 

「あの、アフタヌーンティーを予約しているんです」

「は……?」

わかりやすく狼狽える北海道警のお兄さん。すみません、警備中にお茶を飲みに来るやつがきたときのマニュアルなんてないですよね。なんとかホテルスタッフに確認してもらい、裏口に案内される。

 

この日に向けて事前にお上から、市民としての正しいふるまいについてお達しがあった。警備の邪魔にならないよう不要不急の外出は控えて、家で横になって映画を観ながらブーッと屁でもこいていなさい、とだいたいこんなところだ。それなのに俺はわざわざ帝国ホテルに出掛けている。しかも不要かつ不急の用事で。邪険にされたり、あるいはお叱りを受けたとしても仕方ない。だがこちらにも言い分がある。人からご招待を受けて3カ月も前からたまたまこの日を予約していたのだ。G20で交通規制やら外出自粛なんていいだしたのはせいぜい1カ月前。G20のほうが後出ししたジャンケンなのだ。念のため直前にホテルに確認したところ「自家用車以外で気をつけてお越しください」とのことで過度な迷惑にはならないと判断。せめて挙動不審な行動で警備の手を煩わせぬよう、できるだけ堂々と振舞うことにした。

 

バリケードに囲まれた通路を通る前に、IDの提示を求められる。人生初、お茶を飲むために身分を証明する。建物に入る前にも、名前を告げて予約情報の確認。このへんでちょっと笑えてきたが、メインホールに入る前に、ダメ押しのように空港の荷物検査ゲートがあった。大喜利か。「こんな喫茶店は嫌だ」の大喜利なのか。

 

帝国ホテル1階 ブフェ&ラウンジ 「ザ パーク」。

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やっと落ち着いて写真が撮れました。えへへ、とてもきれいなところですね。それじゃ予約してた例のやつ、お願いします。

 

 

 

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「ウェルカムドリンクのスパークリングワインです」

おっと、さすがは帝国ホテル。気が利いている。ピンと張りつめた雰囲気の中をマヌケな珍客としてくぐり抜けた俺は、この席につくまでにさんざん冷や汗をかいていたのだ。キリッと冷えたスパークリングを口に含み、やっと人心地ついた気分であった。

 

ほどなくして、係の女性が恭しくメニューを持ってくる。「アフタヌーンティーセットではおひとり様につき、2つのお飲み物をお選びいただけます」。ほうほう、そういうものですか。ウバとアールグレイか何かにしたように思う。

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ティーポットに着せる保温カバー、かわいいですよね。

 

お茶を飲みながら、本日のメニューに目を通す。

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ふむふむ。おいしそうとかおしゃれとか、まあいろいろな感想はあるのだけど、アフタヌーンティーの魅力はこの情報量の多さだと思う。これがドーンと一つのセットでやってくるのだから嬉しい。

 

 

さて、満を持して。

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あら、いいじゃない。都会の3階建ても憧れるけど、こちらの3階建ても素敵ね。スコーンの付け合わせで、クロテッドクリームとジャム、ドライフルーツ盛り合わせもついてくる。

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ティーポットやカップなんかもあわせて、テーブルの上ががちゃがちゃと賑やかな感じになるのがいいんですよね、アフタヌーンティー

 

アフタヌーンティーの正式なマナーでは、下の段から順々に食べるべきとされているらしい。実際にはそんなことは気にせずに、食べたいものから好きなようにたべるのがよろしいわけだが、記事にするにあたってはどうしても順番というものが生じる。便宜上、下の段から一品ずつ説明します。

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こちらが1階のサンドイッチの段でございます。サンドイッチというのは孤高の存在でして。具材を豪華にしようとハンバーグを挟めばハンバーガーだし、ソーセージを入れればホットドッグになってしまう。つまり限られた手札のなかでいかに技量を発揮するかという、非常にストイックな料理なのである。え?カツサンドというものがある?あれはカツサンドという別カテゴリの料理です。ちなみに好きな味噌汁の具を聞いてるのに豚汁と答えるのも同じ理由でルール違反です。

前置きが長くなったが、このサンドイッチに挟まれている具はハム、トマト、レタス。そしてチーズと胡瓜。オーソドックス。老舗ホテルらしく、実に硬派である。それでいてしっかりとうまい。3階建ての基礎を成すのは、そういう芯の通ったサンドイッチなのである。

 

奥にあるのは海老と野菜のマリネ。好きな順番に食べるのがよろしいと書いたが、実際問題、下から順番にいくと3階にお住いのスイーツの皆さんを一気に食べるのはつらい。どうしても途中で違う味付けのものが食べたくなる。そのなかでマリネの酸味は貴重である。普通のアフタヌーンティーであればせいぜい甘味と塩味の往復だが、酸味が加わることで三角食べが実現する。日本人の食事習慣を熟知した最高のアレンジ。さすが帝国ホテルである。

 

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そろそろお客様を2階にご案内して差し上げて。普通、この2階というのはスコーンの定位置となっているわけです。たいていの3階建ての家は真ん中にリビングがあるように、2階といえばスコーン。しかし今日は2種類のキッシュも同居していますね。これはリビングがあるのに隣にサンルームも作り、2階全面を寛ぎの空間にしてしまおうという匠な発想なのです。なるほど道理で(道理で?)このキッシュ、ほんのり温かいんです。温かいお料理は温かいうちに。俺はここからまず手をつける。スモークサーモンのほうは塩気が効いている。もう一つはミートソースの中のゴボウがいいアクセント。どちらも、味がギュッと濃い。甘いものがたっぷりあるからこのへんでうまくバランスがとれている。そしてスコーン。スコーンなんてパサパサで何がうまいのかという人もいるでしょう。いいですか、スコーンの本体はこちらのクロテッドクリームです。

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これをたっぷり。たっぷりと塗りつけます。どうせ全部使い切れやしないんだから。ジャムやドライフルーツもお好みで添えて。クロテッドのこってりした油脂の旨味がボソボソのスコーンに合う。実においしい。しかしそういえば、クロテッドクリームってなんなんだろう。

 

脂肪分の高い牛乳を、弱火で煮詰めたものをひと晩おいて表面に固まる脂肪分を集め作られる。(Wikipedia)

 

あ…これもしかしてウルムじゃないですか。

両者がほぼ同じものとは知らなかった。

 

このあたりでお茶のおかわりが運ばれてくる。ふと窓の外を見ると、ホテル敷地内を巡回する警官も交代していた。そうだ、あまりに居心地がよくてすっかり忘れていたが、厳戒態勢だ。外は暑くてぴりぴりとしていて。中は涼しくてこの上なく優雅。すこし意地悪な話だけど、なんかめっちゃ貴族みたいじゃん。

 

 

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いよいよ、最上階へご案内です。このとき帝国ホテルでは抹茶フェアが行われていた関係で、緑色を基調としています。一番上の段というのは、アフタヌーンティーの顔。最上階でありながら同時に玄関なわけです。余白を生かしてちんまりと上品にまとめられていますね。華美になり過ぎず、むしろ一定の節度が感じられる。俺はスイーツの味の良し悪しはそんなにわからないのだが、指でつまめて一口でぽいっと食べられるところもよい。奥にあるほうじ茶ムースが特においしかった。

 

 

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はい、ナイスアフタヌーンでした。普段は立ち入ることのないラグジュアリーなホテルでも、ランチやティータイムなら気軽にいけるところがいいですね。

 

お会計の前にトイレを済ませようとしたら、トイレの入り口、本当に目の前までご丁寧にご案内されてしまった。そして手を洗って出てきたら、さっきの人が待っている。すみません、ここで勝手な行動したら大変ですもんね。警備関係の皆様、ホテルの皆様、そして会議運営に携わったすべての皆様、いまさらですがたいへんお疲れ様でした。

 

モンゴルにまつわる雑記

おじいさんが昔よくいってた。人様の役に立つ人間になりなさいってね。

 

nadegata226.hatenadiary.jp

 

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モンゴル旅行の記事、2つ書いたけど小さなネタがいくつか残っている。ここで一緒くたにして記録に残しておきたい。

それからもしモンゴルにいきたいという人がいたときのために。少しは役に立ちそうな情報も記しておこうと思う。すでに書いた記事は、「役に立つ」という概念が完全に置き去りにされてて笑える。

 

 

モンゴル寒い

滞在していたのはお盆休み。つまり真夏。それでも朝晩は当たり前のように毎日、10度を割り込んでくる。昼間は半袖Tでいいとして、防寒着は必須。今回持って行ったのはユニクロのウルトラライトダウンと、アウトドアメーカーの携帯用ウインドブレーカー。出発前はダウンはやりすぎかなと思ってたけど、結局毎晩、2枚とも活躍した。夏が灼熱地獄である昨今の地球環境を考えると、避暑地としては素晴らしい。なお冬は軽くマイナス30度である。地理的にはほぼシベリアなので。

 

羊づくしの食事

これについては本当にイメージ通りで、とにかく羊づくし。苦手な人にはつらい。宿泊先でオーダーした晩飯でおいしかったのは、定番のボーズ(蒸し餃子、写真中央)とツォイバン(肉野菜やきそば、写真手前)。ここでは「肉なし」を注文することもできたので、羊が食べられなくてもなんとかサバイブできそう。

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俺は羊肉が好きな方だけど、終盤はちょっと辛くなった。具体的には、次第に呼気に羊の気配を感じるようになってしまった。最後は少し金を出していいレストランで牛肉食べた。牛、うますぎてたぶんこのときちょっと涙でた。

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あと驚いたのが、モンゴルはじゃがいもが異常にうまい。ねっとりしてとても甘みがある。北海道と気候が近いしね。

 

乳製品について

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スーパーの乳製品コーナー。すごい品揃え。ウルムのようにとってもおいしいものもあれば、これは無理だろっていうようなチーズもある。羊肉と並んでモンゴルユニークな食文化だから、いろいろ試してみるといい。

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アイス売場にいくと、さまざまな乳製品のフレーバーのアイスがある。日本ではなかなかお目にかかれない味なので、これもいろいろ試してみると楽しい。ただこのアイスだけはダメだ。何味か聞いたら、ミルク!ミルク!って言うけど、実際はゲロ味だった。マイルドなゲロ。泣いた。泣きながらごめんなさいして大地に返した。ミルク言うたやん。ほかの旅行者の証言では、馬糞味のアイスもあるらしい。モンゴリアン百味ビーンズ

 

ハラホリンという町

結局、この町に6泊した。小さくて自然豊かで、いい町なのである。ウランバートルからのバスは6時間かかるが、値段はたったの800円くらい。ハラホリンがオススメできる最大の理由は、一言に尽きる。泊まったゲストハウスが良すぎた。

Gaya’s Guest House

http://gayas-guesthouse.mystrikingly.com

 

ここのおかみさん、ガヤさんが本当に親切。日々の困りごとをなんでも相談に乗ってくれるし、いろんなアクティビティもアレンジしてくれる。乗馬、ノマド体験、ゲル泊、らくだツアー、トレッキング、渓谷めぐり…。そのすべてが破格に安い。現地の相場観はわからないのであくまで体感的にだけど。こちらの都合にあわせて親身に提案してくれるから、ついついかなりアクティビティを入れてしまった。旅行前にもメールで相談に乗ってくれる。あとなかよくなるとガヤさんのブラックジョークも聞ける。

 

お土産

観光地の土産物屋にいくと、たいていアンティークショップが2,3軒はある。個人的な趣味でいえば、モンゴルのアンティーク市場はかなり好きだった。

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動物スタンプ、少し値切って一つ500円で買った。本物か。イミテーションか。めちゃかわいいからどっちでもいい。

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このゾウさんなんかは、作風が完全に漫☆画太郎で最高である。ほかにお土産でいいのは、羊とか牛とかヤクとかの毛をつかった製品。手袋とか靴下とか。かなり暖かいしデザインが無難なのがいい。

 

交通

滞在中、驚きの情報を得た。モンゴルでは車を拾いたければ、道端で手を腰の高さにかざすと車が止まるらしい。ただしタクシーではなく普通の車が。まさかね。都市伝説だと思うけど。俺はそんなことする勇気なかった。それとは関係ないけど、街中でソ連みのあるかわいいバンがたくさん走っていて嬉しい。ワズという車だそうです。

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ビールがうまい

モンゴルはビールがうまい。日本のものとは少し毛色は違うけどすごくしっかりした感じがする。びっくりした。

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500ml缶がスタンダードなところに、酒豪な国民性がうかがえる。特にうまいのは下の銘柄。

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缶ビール1本が100円未満くらい。店で飲んでも200円くらいだけど、草原で寝転がって飲むと最高。

 

草原と骨

モンゴルの草原には骨が落ちている。しかもかなりカジュアルに。

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どこの馬の骨ともわからない。あるいは羊や牛の骨かも。聞けば、放牧中に行き倒れ、そのまま放っておかれた動物たちらしい。モンゴルの生き物たちは家畜といえど、自由に野を駆け、草を食み、力尽きれば地に返る。残った骨は観光客に写真に撮られる。そういうことらしい。

 

 

Windows XPの壁紙を求めて

草原を見たことがあるだろうか。視界いっぱいに広がる大草原を。俺は、いまだ見たことがなかった。山がちな島国に生まれた人間として。なかでも都市部に育った人間として。草原の景色には、昔から漠然とした憧れがあった。そこで、ついにこの夏休み。かねてからの念願であった、理想の草原を探す旅に出ることにした。え?「理想の草原」ってなに?そんなのWindows XPの壁紙に決まっているでしょうが。

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草原のイデア

草原と一口にいっても、世界にはいろんな草原がある。アフリカのサバンナ、ユーラシアのステップ、南米のパンパ。どれもれっきとした大草原だが、俺にとっての草原というのは、もうどうしたってWindows XPである。

XPが世に出たのは2001年。今のアラサー世代には、本格的にPCを使いはじめた時期と重なるという人も多いだろう。かくいう俺も、自由研究の調べ物をしたり、ピンボールワームホールに突入したり、ときには肌色の出力が多めの画像を閲覧したりと、多感なティーンエイジをともに駆け抜けた愛機がXPであった。

そんなXPの代名詞といえば、草原の壁紙である。この写真を人生のうちで数千時間は視界に収めてきたはずであり、本物の草原をみたことがない俺にとっては、いつのまにかこの景色が草原の理想形として、草原のイデアとして頭に刻み込まれていった。


つまり。俺が草原を見にいきたいと言ったときには、何処の馬の骨ともわからない草原ではダメなのである。この嘘くさいほどに美しい、XPの草原こそが見たいのである。かくして俺は、旅に出た。

 

 

 

遊牧民の国は、草原の国

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こちらはチンギスハーン国際空港。モンゴル国の空の玄関口である。

モンゴルといえばチンギスハーン。チンギスハーンといえば遊牧民。そして遊牧民といえばやはり草原である。日本の4倍もの国土があり、その大半を草原が占めるモンゴル。この国ならきっと、理想の草原に出会えるのではないか。そんな期待を抱いて今回の旅先に選んだ。

この日は深夜便での到着のため、近隣のホテルに直行。タクシーのヘッドライトが照らす先以外、何も見えない暗闇を15分ほど走り、ポツンと浮かんできた頼りない明かりが、宿泊先のホテルであった。

 

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安いのに部屋はムダに広い。

明日は長距離バスに乗り、さらに内陸の地方都市へ向かう計画だ。明朝の出発時間だけ確認すると、長時間移動の疲れもあり、どろりと眠りに落ちた。

 


 


しかし朝起きると、まさかの展開だった。部屋の窓から見える景色、かなりXPだった。

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昨夜はMS-DOSばりの黒だったんですけど。

 

え、いきなり?というのが率直な気持ちであったが、嬉しいものは嬉しい。電線がすこし気になるものの、青い空、緑の大地、白い雲とXPの基本要素は備えている。

空港からものの15分でこの雰囲気。やはりモンゴル、ただものではない。しかし道理で、昨夜の道中は真っ暗だったわけだ。こんなところを走ってきただなんて全然気づかなかった。

 

 


草の海を行く

昼頃、バスで首都を離れる。6時間の長旅だ。車中でもいい草原を探すぞ。

走り出して10分。都市部から抜け出すと、さっそくXP感が強い!慌ててシャッターを切る。

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おお。

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うーむ。

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看板!ちょっとジャマ!

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草原が背景のガソリンスタンド、かっこいいね。


と、ハイペースで写真を撮っていたのだが、実はこれ以降の車窓はずーっと、ずーっと草原。はしゃぐ必要も焦る必要も全然なかった。あとからフォトアルバムを見返してみると、発車30分くらいで変わりばえしない写真を何十枚も撮っていて、何に感動していたのか今となってはさっぱりわからない。たぶん隣のモンゴル人の少女も呆れていたことだろう。

先ほども触れたように、モンゴルの国土は基本が草原なのだ(ゴビ砂漠は除いて)。モンゴルに「草原がある」という表現は体感的には正しくなく、どちらかというと草原がずっと広がっている中に、たまに街や道路があるだけなのだ。日本人にとっての海みたいなもんである。

 


だんだんと草原の景色にも慣れてきた頃。

 


あ、羊だよ!!

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みんな見て、牛!!!

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しかしこれについても、はしゃいでいるのは俺だけ。モンゴル人なにも言わない。なんというか住む世界が違うというのはこういうことだ。

 

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夏空の下、馬で駆ける子どもがバスと並走する。だってこんなのめっちゃエモくないですか。ねえ、何か言ってよモンゴル人…。

ちなみにこれはナーダムという夏のお祭りで、馬の長距離レースをやっているらしい。子どもたちの運動会的な位置付けでもあるそう。赤組がんばれ、白組まけるな。

 

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途中のトイレ休憩。いい草原だ。遠くにナーダムのテントが見える。手前のおじさんは「野」をしています。

 

 

 

この旅いちばんの景色

日が傾きかけた頃に到着したのはハラホリンという小さな小さな町。メインストリートに沿ってぽつぽつと低層ビル。それを取り囲む千軒ほどの民家。あとは基本的にぜーんぶ草原。これは否が応でも期待が高まる。

綺麗な草原を見にきたんだとゲストハウスのオーナーに伝えたところ、「とりあえず今から裏の丘に登ってみたら?夕日がとても綺麗よ」とのこと。すると、たった5分歩いただけでこの景色である。

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うわわ、なんだこれ。正直に言って、この旅のベスト風景が出てしまった。ここで記事を終えてもいいのでは、ってくらい感激した。

「どうせならビール持ってけば?」というオーナーのアドバイスもまた、絶妙であった。俺、ここで飲んだビールはずっと忘れないだろうな。

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ただそれはそれとして。やはりXPとは少し違うんだよな。欲をいえば、夕方の空よりも綺麗な青空がいいし、余計な人工物もできるだけないほうがいい。せっかくここまできたのだから、細かいところまでいろいろ粘ってみよう。

 

 

 

騎馬探検隊の結成と撤退

翌日は現役バリバリの遊牧民が案内する、乗馬体験ツアーを申し込んだ。


「諸君、馬の機動力を生かして広範囲を捜索できるチャンスだ。われら探検隊にとって今日という日を、XPを再発見した記念碑的な一日にするのだ。俺に続けっ」

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まあ普通に遊牧民のお兄さんが手綱を引いてくれるんですけど。

 

 


10分後。

 

 

 

 

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??

 

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???

 

 

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季節外れの、でたらめなヒョウに降られた。撤退を余儀なくされる探検隊。もといかわいそうな乗馬体験の観光客たち。

 

 

 

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これは雨上がりの景色。めっちゃ美しいけど、これまたちょっと違うんだよな。

 

 

 

鳴り響けファンファーレ

ええ、すいません。乗馬のくだりはあまり草原と関係ないです。茶番はさておき。この町に到着したときからなんとなくわかっていたことなのだが、初日に登った丘を超えたさらに先。ゲストハウスの窓から見える、このへんがXP的にちょうどよさそうだと思っていた。

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というのも。

これまでに出会った草原は確かに美しかった。だがXP的には、大切なものが欠けていたと言わざるを得ない。それは、空と大地を隔てるなだらかな曲線である。これを画角に収めるためには、緩やかな傾斜地を自らの足で歩き、丘の稜線が絶妙のバランスになるポイントを探して、写真を撮る必要があるのだ。そのためには、上写真の丘のあたりがちょうどよさそうなのだ。

 

ここであらためてXP的な要素を確認しておこう。

・緑のじゅうたんのような大地

・抜けるような青い空

・品のある白い雲

・人工物や余計なオブジェクトはNG

・なだらかな稜線 ←New!

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見本を再掲しておきますね

 

オッケー、求める条件がクリアになったぞ。それではお弁当をもってピクニックがてら、いってみましょう。

 

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おお。

 

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うひょー!


小さな丘を一つ越えるごとに、新しい景色が開ける。次はどうか、その次は…とひたすら歩き続ける。そして。

 

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これー!これでどうですか!美しすぎる!!!

 

構図的にはほぼ完璧でしょ!なに?雲が少し足りない?そこは大目にみてほしい。もうここまで2時間近く歩いているの。窓から見たときは近くに見えても、歩くと意外に遠いの。草原ってそういうもんなの。

 

だが決して、俺のなかでは妥協などではない。この景色を前にしたとき。このとき俺には、確かにあの懐かしいファンファーレが聞こえてきたのだ。流麗かつ壮大な、Windows XPの起動音が。

 

 

 

チャンララン ララ〜…♪

 

 

 

Fin.

 

 

 

 


おまけ

最後の起動音、ピンとこない人はYoutubeで調べてみよう。ところで帰国後に調べてみると、例の写真は1996年にアメリカのカリフォルニア州で撮られたものらしいということがわかった。モンゴルじゃないじゃん、って思うかい。そんなのは瑣末なことさ。大事なことは自分の理想としていた景色を超えるものを、実際にこの目で見たってことなのさ。

 

あと、コレができたから俺としては十分満足なのさ。

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遊牧民のビッグマムは朝一で乳を煮る

この溶けたバニラアイスのようなもの。遊牧民の激ウマスイーツで、ウルムという乳製品です。

柔らかい固形部分を、揚げパンや食パンに乗せ、軽く砂糖をかける。するとどうでしょう。あら、最高ですね。

味は、バターのような、生クリームのような。濃厚なんだけど優しくて。乳の本来の役割である、仔の命を繋ぐための滋味にあふれている。そんな感じがする。

さて今日は特別に作りかたを紹介します。







まず、ゲルを用意します。

大きくて、煙突がついているものを選びましょう。

はい、大鍋。これはなかなかいい大鍋ですよ。

今日のシェフを紹介します。こちらのビッグマムです。

遊牧民の朝は早い。一日は乳搾りから始まる。

早いと思ったら、まあ6時半だった。都内で働き、郊外に住む平均的サラリーマンくらいだ。

この搾りたての新鮮な牛乳がウルムの材料。

では、かまどに火をくべましょう。

紙から薪へと火を移す。彼女にとっては毎朝の仕事。慣れた手つきで着火する。

今日は、なんだか、火の勢いがいまいちね。

あ、文明の利器。

熾火でじっくりコトコトいきましょう。

膜が張ってきましたね。

大量なので温まるのにもとにかく時間がかかる。












いかん、ウトウトしていた。8月といえど、早朝の気温は一桁まで下がる。かまどの暖かさに気が緩む。

鍋にあまり動きがないので、外の様子を伺います。

わーい、みんな待ってー

子どもはかわいい。


大人はすこし怖い。


俺たちはお先に朝メシにするべえ。


なかなか次の工程に進まないね。


ビッグマムが動いた!急いでゲルに戻る。

何か乳白色の液体が鍋に入った。いまのところ小麦粉を水で溶いたものという説が有力。


ひしゃくでミルクを何度もすくい、たっぷり泡立てる。


おりゃー。


もこもこもこ。乳の香りが立ち上る。


あんた寒いのかい、と炊いている途中のミルクを勧めてくれた。まあ、これはシンプルなホットミルクですね。


引き続き火にかける。だいぶ外も暖かくなってきた。


泡が弾けていったあとに、うっすらと湯葉状の膜が。なるほど、この乳脂肪分のかたまりがウルムか。


こうやって鍋一面にウルムが広がるのを待つ。いまウルム率、60%くらい。

そしてついに。

やった、ほぼ全面がウルムに。ここまで3時間近くはかかっている。


ではビッグマム、早速できたてを一口もらおうかい。

「ノーノー、トゥモロー」






なんと。いまのウルムはぺらぺらの幼ウルムとでも言うべきもので、これからさらに時間をかけて分厚い大人のウルムになるのだという。



ということで、昨日作ったウルムを再びいただいた。ホントにうまいなこれ。






ウルムは各家庭でつくる料理。お店で売っているようなしろものではないらしい。お土産にすることができないのは残念だけど、ここでしか見られないものを見ることができたともいえる。

われわれはツーリストだ。ツーリストは、お金を払ってゲルに泊まっている。何をしていても自由なのだ。乗馬体験をするのもよかろう。乳搾りをさせてもらうのも楽しい。満点の星空を眺めるのも素敵だ。でも俺は料理を作っているのをぼんやりみているのが、一番好きだった。




たまたま各自の仕事が落ち着くタイミングだったのか、家族みんながゲルに集まってきた。お茶で一息入れて、さあ次の仕事をがんばろうか、という感じ。遊牧民の朝は思ったより早くなかったが、やることはとにかくたくさんあるのだ。

お詫びにセンスがあるとすれば

7月某日。
カフェチェーン店にて。

最近、休みの日にはよくここにくる。コーヒーを頼む。平日にやりきれなかった雑務を片付ける。隣の席が大人数の団体で賑やかなので、イヤフォンで音楽を聴く。

団体さん、帰る。テーブルのうえには皿、皿、皿。若いベトナム人の店員さんが黙々と片付ける。

高く積み上げられた皿とカップ。店員さんバランスを崩す。皿、盛大に割れる。破片が足元に散らばる。店員さん謝る。大した被害はない。俺は気にしないぜ。

席を移動させてもらう。お詫びに、とコーヒーを一杯いただく。なんかすみません。




7月某日。
大阪では有名な居酒屋。

この日は仕事が早く終わり、同僚と立ち寄る。人気店なので普段は大行列だが、今日は早い時間なのですんなりと座れる。魚がうまい。でたらめに安いのにうまい。

日本酒を頼む。カウンターに大きな湯呑みが置かれる。店員さんが一升瓶から注ぐ。なみなみ注ぐ。おお、なみなみだ…と思っていたら、そのまま盛大に溢れた。膝びしょびしょ。店員さん大慌て。カウンターの奥で大将が怖い顔している。すぐにおしぼりが山のように出てくる。どうせクリーニングに出すつもりだったのだ。俺は気にしないぜ。

お詫びに、とマグロのいいところの刺身が出てきた。恐縮する。





7月某日。
立ち飲みの居酒屋にて。

オープンして間もない立ち飲み居酒屋。真新しいぴかぴかのカウンター。友だちと早い時間から飲み始める。

野菜が食べたかった。グリーンサラダを頼んだ。仲間うちで取り分けて、おいしく食べていたら、端っこにいた女の子が小さく鋭い悲鳴をあげた。

サラダの中になめくじがいた。小指の先ほどの小さなやつ。にょろり。

健康な野菜の証拠だ。俺は気にしないぜ。でも今日は一人じゃないから。特に女性陣は嫌がるだろうな。店長が丁重にお詫びにくる。



「先程は申し訳ありません。これ、さっきのお詫びでしてよろしければ…」









このビジュアルは、さすがに気になるな。


お詫びという行為そのものについては100点の対応だけど、もしお詫びにセンスというものがあるとすれば、これはまさに赤点レベル。しかし店長さんはいたって真剣な表情なのである。真剣に謝っているのに、清々しいほどにハズしている。この状況がシュールすぎて、思わず笑ってしまった。



つぶ貝は、おいしかった。