お詫びにセンスがあるとすれば

7月某日。
カフェチェーン店にて。

最近、休みの日にはよくここにくる。コーヒーを頼む。平日にやりきれなかった雑務を片付ける。隣の席が大人数の団体で賑やかなので、イヤフォンで音楽を聴く。

団体さん、帰る。テーブルのうえには皿、皿、皿。若いベトナム人の店員さんが黙々と片付ける。

高く積み上げられた皿とカップ。店員さんバランスを崩す。皿、盛大に割れる。破片が足元に散らばる。店員さん謝る。大した被害はない。俺は気にしないぜ。

席を移動させてもらう。お詫びに、とコーヒーを一杯いただく。なんかすみません。




7月某日。
大阪では有名な居酒屋。

この日は仕事が早く終わり、同僚と立ち寄る。人気店なので普段は大行列だが、今日は早い時間なのですんなりと座れる。魚がうまい。でたらめに安いのにうまい。

日本酒を頼む。カウンターに大きな湯呑みが置かれる。店員さんが一升瓶から注ぐ。なみなみ注ぐ。おお、なみなみだ…と思っていたら、そのまま盛大に溢れた。膝びしょびしょ。店員さん大慌て。カウンターの奥で大将が怖い顔している。すぐにおしぼりが山のように出てくる。どうせクリーニングに出すつもりだったのだ。俺は気にしないぜ。

お詫びに、とマグロのいいところの刺身が出てきた。恐縮する。





7月某日。
立ち飲みの居酒屋にて。

オープンして間もない立ち飲み居酒屋。真新しいぴかぴかのカウンター。友だちと早い時間から飲み始める。

野菜が食べたかった。グリーンサラダを頼んだ。仲間うちで取り分けて、おいしく食べていたら、端っこにいた女の子が小さく鋭い悲鳴をあげた。

サラダの中になめくじがいた。小指の先ほどの小さなやつ。にょろり。

健康な野菜の証拠だ。俺は気にしないぜ。でも今日は一人じゃないから。特に女性陣は嫌がるだろうな。店長が丁重にお詫びにくる。



「先程は申し訳ありません。これ、さっきのお詫びでしてよろしければ…」









このビジュアルは、さすがに気になるな。


お詫びという行為そのものについては100点の対応だけど、もしお詫びにセンスというものがあるとすれば、これはまさに赤点レベル。しかし店長さんはいたって真剣な表情なのである。真剣に謝っているのに、清々しいほどにハズしている。この状況がシュールすぎて、思わず笑ってしまった。



つぶ貝は、おいしかった。