遊牧民のビッグマムは朝一で乳を煮る

この溶けたバニラアイスのようなもの。遊牧民の激ウマスイーツで、ウルムという乳製品です。

柔らかい固形部分を、揚げパンや食パンに乗せ、軽く砂糖をかける。するとどうでしょう。あら、最高ですね。

味は、バターのような、生クリームのような。濃厚なんだけど優しくて。乳の本来の役割である、仔の命を繋ぐための滋味にあふれている。そんな感じがする。

さて今日は特別に作りかたを紹介します。







まず、ゲルを用意します。

大きくて、煙突がついているものを選びましょう。

はい、大鍋。これはなかなかいい大鍋ですよ。

今日のシェフを紹介します。こちらのビッグマムです。

遊牧民の朝は早い。一日は乳搾りから始まる。

早いと思ったら、まあ6時半だった。都内で働き、郊外に住む平均的サラリーマンくらいだ。

この搾りたての新鮮な牛乳がウルムの材料。

では、かまどに火をくべましょう。

紙から薪へと火を移す。彼女にとっては毎朝の仕事。慣れた手つきで着火する。

今日は、なんだか、火の勢いがいまいちね。

あ、文明の利器。

熾火でじっくりコトコトいきましょう。

膜が張ってきましたね。

大量なので温まるのにもとにかく時間がかかる。












いかん、ウトウトしていた。8月といえど、早朝の気温は一桁まで下がる。かまどの暖かさに気が緩む。

鍋にあまり動きがないので、外の様子を伺います。

わーい、みんな待ってー

子どもはかわいい。


大人はすこし怖い。


俺たちはお先に朝メシにするべえ。


なかなか次の工程に進まないね。


ビッグマムが動いた!急いでゲルに戻る。

何か乳白色の液体が鍋に入った。いまのところ小麦粉を水で溶いたものという説が有力。


ひしゃくでミルクを何度もすくい、たっぷり泡立てる。


おりゃー。


もこもこもこ。乳の香りが立ち上る。


あんた寒いのかい、と炊いている途中のミルクを勧めてくれた。まあ、これはシンプルなホットミルクですね。


引き続き火にかける。だいぶ外も暖かくなってきた。


泡が弾けていったあとに、うっすらと湯葉状の膜が。なるほど、この乳脂肪分のかたまりがウルムか。


こうやって鍋一面にウルムが広がるのを待つ。いまウルム率、60%くらい。

そしてついに。

やった、ほぼ全面がウルムに。ここまで3時間近くはかかっている。


ではビッグマム、早速できたてを一口もらおうかい。

「ノーノー、トゥモロー」






なんと。いまのウルムはぺらぺらの幼ウルムとでも言うべきもので、これからさらに時間をかけて分厚い大人のウルムになるのだという。



ということで、昨日作ったウルムを再びいただいた。ホントにうまいなこれ。






ウルムは各家庭でつくる料理。お店で売っているようなしろものではないらしい。お土産にすることができないのは残念だけど、ここでしか見られないものを見ることができたともいえる。

われわれはツーリストだ。ツーリストは、お金を払ってゲルに泊まっている。何をしていても自由なのだ。乗馬体験をするのもよかろう。乳搾りをさせてもらうのも楽しい。満点の星空を眺めるのも素敵だ。でも俺は料理を作っているのをぼんやりみているのが、一番好きだった。




たまたま各自の仕事が落ち着くタイミングだったのか、家族みんながゲルに集まってきた。お茶で一息入れて、さあ次の仕事をがんばろうか、という感じ。遊牧民の朝は思ったより早くなかったが、やることはとにかくたくさんあるのだ。