京都のお茶屋さん
京都でちょっといいお茶屋さんにいってきた。近々、海外の知人を訪ねるので、お土産のお買い物である。
きちんとした老舗のお茶屋さんに来たのはこれが初めてだ。このお茶屋さんのこともよく知らない。ただ、いい店だったのだ。賑やかな通りにあって入りやすい。古くてこじんまりとしている。年配のご主人は常に笑顔。格式のあるお店なのだとは思うのだけど「名店でござい」というニオイがしないのが特によかった。
とはいえそこは京都の老舗。雰囲気は抜群だ。俗な言い方をすれば、外国人観光客は大喜びだ。敷居を跨げば、ぴりりっと空気が変わる。カウンター越しに見える茶壺や木箱はふしぎな魔力を発している。柔和なご主人の説明を滔々と聞いていると、日常の些細な悩みは忘れてしまう。アマゾンプライムを解約し忘れてしまったこととか。
買ったのは煎茶と焙じ茶で、おまけの茶筒を合わせても大した金額ではない。それでも始終、丁寧に対応してもらって、いたく感激した。本当に幸いなことに、いい店だったのだ。こういう専門店に行く場合、初めての店の印象は大切だ。いやな思いをしたり恥をかいたと思ったりしたら、その文化に触れるための扉はいったん閉ざされてしまう。ばたん。おかげで俺はお茶の専門店というものにまたいこうと思えたし、たぶんこの店が筆頭候補になるだろう。
15分ほどの買い物を終えて通りに戻ると、テレビの撮影をやっていた。三連休の賑やかな通りの中でも、ひときわ人が集まって団子状。そんな。あからさまな。と笑ってしまった。
キリル世界のゴミ、ぜんぶ持ち帰る
海外旅行好きの界隈において、旅の記録をどう残すかというのは議論の尽きない課題である。写真を撮るとか文章に残すとかさまざまな手法が考えられるが、一つのソリューションとして我が家には、旅行中に発生するアレコレの紙類を貼り付けているノートがある。
https://dailyportalz.jp/kiji/gomi-note_saiko
(この記事は、デイリーポータルZの17周年を祝して開催中の、名作記事カバー企画に捧げるものです)
貼り付けてあるのはレシートとかバスのチケットとか瓶ビールのラベルとか。要するに旅行先の"ゴミ"でつくるスクラップブックである。
たしかにこれらはゴミの寄せ集めには違いないのだが、それでも折に触れて見返してしまう不思議な魅力がある。たぶん、ここに貼ってあるものはぜんぶ、かつて旅先に実在していて、飛行機で一緒に帰ってきたリアルなモノだからだ。写真や文章で記録に残す行為はいかに上手でも、あくまで制作者のフィルターを通した二次的なもの。一方で現地から持ち帰ったゴミは確かにゴミでも、かつて旅の一部、旅そのものだったゴミなのだ。
さて。このノートをバラバラめくっていて気づいたことがある。なんかやたらと存在感を放つゴミの一群があるのだ。それはロシアを中心とした、キリル文字の文化圏から持ち帰ってきたゴミたちである。
キリル文字の妖しい魅力
キリル文字というと「Д,Ж,Б」などよく顔文字に使われるアレである。中にはラテン文字(A,B,C...)に似た文字もあるが、読み方がまったく違う場合も多く、もはや暗号のようである。
もちろん旅をする上では、厄介な存在である。田舎のトイレで切羽詰まっているときに、入り口に手書きで「М」「Ж」とだけ書いてありどっちが男性なんだと崩れ落ちたこともある。だが読めないからこその楽しみもある。限られた情報量のなかで嗅覚を研ぎ澄まし、窮地を乗り越えていくのは旅の醍醐味の一つだ。もちろんその結果として反対向きの電車に乗った経験は何度となくあるが。
適度な不便さは、旅を楽しくすると俺は思っている。むしろこの読めそうで読めない感じが、自分の知らないパラレルワールドに迷い込んだようで、強烈な旅情を演出してくれる。かっこよくいえばキリル文字が、旅が面白くなる魔法をかけてくれるのだ。
ロシア・イルクーツク。よくあるヨーロッパの街並みなのに看板が読めない。左に曲がれば魔法学校とかあったりしないかな。
はるばるそんな地域から持ち帰ってきたゴミたちが、妖しい魅力を放つのは当然である。厳選したキリル世界のゴミをご紹介させていただこう。
旧共産圏、独特の書類文化
そもそもの話。キリル世界では他の地域よりも余計に紙ゴミをもらうことが多い気がする。例えばこの、悪名高いレギストラーツィア。
外国人に対して滞在中にどこに泊まっていたのかを証明させる書類で、出国時にこれがないとたいへんなことになる(らしい)。旅行者に厳しかったソビエト時代の遺物らしく、最近はルールが緩和されているとも聞くが、一部旧ソ連圏には残る。
普通なら小さな紙切れで済むところが、やたらとかっちりした書類が発行されるというケースもよく見られる。
古めかしい紙にいかついキリル文字。それだけで何か重要な許可証をもらったような気分になる。だがなんのことはない、ウズベキスタン・ブハラの博物館の領収書である。
「道中で特別な便宜を図ってもらえるよう関係の諸官に宛てた親書」みたいな雰囲気を漂わせる、ロシア・ウラジオストクのタクシー支払い証明書。便宜どころか「よくわかんないからこのへんで」とへんなところで降ろされた。
それから、やたらとでかいハンコがいたるところに押されているのも、旧共産圏の書類文化を象徴しているようで面白い。
ロシアのレギストラーツィア。
モンゴル・ウランバートルのバス。
ロシア・ハバロフスクのホテル。
ロシア・ウラジオストクの封筒。
だいたいみんな「ッダーーーン!」と元気いっぱいにハンコを押してくれる。かっこいいハンコがあれば、紙ゴミの魅力は3割増だ。
さてここまでにすでにいろんな国名が出てきたことからわかるように、キリル文字の文化圏は意外と広い。源流はギリシャ文字だし、キリル発祥の地は東欧のブルガリアと言われている。キリル文字=ロシア語ではないのだ。まだまだ各国のユニークな紙ゴミは続く。
レトロでクールな市民の足
旅先ではタクシーも多用するが、機会があれば一度は公共交通を使うようにしている。乗車ルールが不明瞭で度胸がいるが、そのぶん乗り物に乗ること自体がアトラクションになるし、何より切符などの貴重な紙ゴミが手に入る。キリル世界では車両そのものもレトロでかっこいいが、乗り物系ゴミも趣があっていいぞ。
ロシア・ハバロフスクのバスチケット。ぺらぺらのわら半紙にいかにも無機質な朱色の印刷。バスにはたいてい不機嫌な顔をした集金係が乗っている。乗車すると混み合うなかをぐいぐいと近づいてきて、きっちりと数十円の運賃を徴収して無表情で去っていく。べりっと無造作にちぎった跡が生々しく残るこのチケットは、その一連の文化を有形にする"一級品のゴミ"である。
これはブルガリア・ソフィアを走るトラムのチケット。オールドファッションな雰囲気を残しながら、ロシアのバスにくらべて紙もしっかりしているし、洗練されている。ただその代わり、トラムそのものは期待を裏切らずボロい。
重い雲、古いアパート、そしてボロいトラム。いわゆる"ソビエトみ"の強い写真である。
一転して急にハイセンスなデザインのこちらは、ロシア・モスクワの地下鉄のチケット。しかもかなりしっかりした厚紙で、金がかかってそうなのに、なぜか使い捨て。おかげでこんなにかっこいいゴミがたくさん手に入ってうれしい。
Suicaの上からパスケースにいれれば、日本の地下鉄でもロシア気分が味わえるお得なゴミだ。
ウズベキスタン・タシュケントの地下鉄はジェトンと呼ばれるプラスチックコインで入場する。ちなみにどちらの国でも地下鉄の構内は、歴史の厚みを感じさせる美しさだ。個人的に一押しの観光スポットである。
長距離移動のゴミはでかい
キリル世界で憧れの乗り物No.1といえばご存知、世界最長を誇るロシアのシベリア鉄道である。eチケットながら、大判で情報量が多くて嬉しい。しかも英露併記なのでちゃんと意味もわかる。
移動時間が長いので、車内で何度も読み返した思い出深いゴミだ。モスクワから4泊5日、車内に缶詰で寝正月を過ごした記録はまたいつかまとめて記事にしたい。
同様の長距離寝台列車は旧ソ連各地に残っていて、ウズベキスタンではこんなチケットを手に入れた。日本にいると、たまに新幹線のチケットを手に取るとでかいなと感じるが、これはさらにその4倍くらいある。旅行中は邪魔くさいんだけど、旅の思い出としてはこのくらい大きいほうがありがたみがある。
カザフスタンのアスタナ航空。ロシア系の航空会社でもそうなのだが、飛行機が着陸すると乗客たちが一斉に拍手する謎の習慣がある。やはり昔は結構な割合で堕ちていたとかいう背景があるのだろうか…。ちなみに機内や空港は撮影禁止のことが多く、記録のためにゴミを持ち帰る意義はことさら大きい。
ビールはローカル文化の象徴
むかしから、旅と酒は切っても切れない関係にある。酒は現地の習俗の映し鏡であり、酒場に行かずして訪ねた街を語ることはできない。なかでもビールはもっともワールドワイドなアルコール飲料である一方で、地域ごとの嗜好にあわせたローカル性も併せ持つ。国を知りたければ、その地のビールを飲み、そしてラベルを持ち帰るべきなのだ。
キリル世界のNo.1ブランドはやはりロシアのバルチカ(左上)。シンプルながら力強さを感じるのは、やはり見慣れない文字のせいか。
総じて、味もラベルも質実剛健なビールという印象である。しかしロシアビール、よく見ると少し意外なことに、全体的にアルコール度数が低めだ。3.6%や4.0%なんて日本でなかなか見ない。「酒なんて酔えればいい、工業用アルコールを持ってこい」なイメージを勝手に抱いていたが、意外に繊細なのかもしれない。
繊細といえば、ブルガリアのレトロかっこいいビールは、4.95%と度数がやたらと細かい。なんなんだ。どうしても5%超えたくないのか。それはさておきシビれるデザインである。こちらを拒絶するようなタイポグラフィの堅さと、いっさい媚びのない色遣い。一番下に小麦の図柄がなければ工業製品のラベルといっても通じそうだ。しかし実は、これでなかなかおいしいのだ。
ゴミを持って帰れなかったのが残念だが、ウズベキスタン・サマルカンドではなぜか10%くらいのハイアルコールビールが市場を席巻している。宿泊先で地元の人にぐいぐいと勧められてノックアウト寸前になった。ちなみにウズベキスタンではソ連時代を生きた年配者は酒を飲むが、独立後イスラム教に回帰して以降の若者はあまり酒を飲まないという世代間ギャップがあるらしい。
余談ながら、ぜひ日本にも導入してほしいのがロシアのビール充填マシーン。好きな銘柄を選ぶと、店員さんがペットボトルに充填してくれる。当時、500円くらいで2リットル詰めてくれたような気がする。最高としか言いようがない。
たべものゴミは緊張感が増す
最後にまとめて食品関係のゴミ。旅先ではそもそも口に入るものにとにかく気を使うが、キリル文字は得もいわれぬ緊張感を演出してくれる。
ロシア・モスクワ。安心のグローバルブランド「クノール」と、素性の知れないキリル文字の共演。結局キリルの不安さが勝ち、未開封のまま帰国、そのまま賞味期限を切らしてゴミになってしまった。ちなみに中身はかの有名なロシア料理、ボルシチ。
ブルガリア・ソフィア。牛だからミルクかな、甘いお菓子だなと思ったらやはりキャラメル。ゆるくてかわいいんだけど、レトロなフォントにわずかな緊張感が漂う。
モンゴル・ハラホリン。文字が読めず写真もなく、缶詰で中身も見えないとなれば完全にギャンブル。中央の青い缶詰があまりにかっこいいのでジャケ買いしたのだが、空港で没収されてしまい幻のゴミに。欲しかったな、このラベル。
別の意味で緊張感があるロシア・ハバロフスクのチョコレート。商品名はサハリン。甘いチョコレートにも、祖国愛である。
ウズベキスタン・ブハラのお茶。ウズベキスタンでは緑茶が好まれ、とにかくたくさんお茶を飲む。象のイラストがゆるかわなのに、なんでこのキリルはこんなにアグレッシブなデザインなんだろう。ちなみにパッケージの95と110はなんの数字かなと思ったら「特に意味はない」とのことだった。
モンゴル・ウランバートルのチョコレート。これはかわいい!5枚ください!と思ったのだが、よく見れば英語。なんともったいない。観光客向けということなのだろうけど、モンゴル文字かキリル文字だったなら俺が10枚は買うのだが。
おまけ:かんたんキリル文字講座
いかがだっただろうか。ゴミの話しかしてないくせに恐縮であるが、キリル世界の魅力が少しでも伝わっていれば幸いである。
最後に超簡単なキリル文字講座*1を少しだけ。俺はキリル世界の言葉はしゃべれないし単語もほとんどしらないが、旅を重ねるうちに文字だけは覚えたのだ。例えば、キリル文字のなかにはラテン文字によく似た字形のやつらがいるが、
Н→N
Х→H
Р→R
С→S
И→I
У→U
という対応になっている。これだけ覚えておけば、НИСИ ХИРОСИ(西 浩志)さんは自分の名前をキリルで書くことができる。さらに、好きな古道具を聞かれればИсиусу(石臼)と答えることが可能だし、もし万が一、日本語のフレーズを一つ教えてくれと言われたら、Хунсуи ни сири(噴水に尻)と自信を持って書ける。
加えていくつか頻出の文字を覚えておけば、もうバッチリ。地名がなんとなく読めるようになるので、バスや電車の行き先がわかる。さらにресторан(レストラン)やаэропорт(アエロポルト、空港)といった単語が読めるようになり、ずいぶん旅を助けてくれる知識になる。
丸腰でキリル世界に飛び込むのもスリリングでいいが、多少なりとも手がかりがあると、パラレルワールドを読み解いていく楽しみはぐっと増えることだろう。
*1:言語によって微妙に使い方が違うらしいが、ひとまずロシア語の場合
屋久島のベストシーズンはいつなのか 後編
もしお時間が許せば、前編からどうぞ。
「暗闇の山中を、明かり一つで歩いた経験は?」
真冬の午前五時。屋久島の山中。縄文杉へと続くトロッコ道。前を照らすのはヘッドライトの明かりのみ。出発地点には意外とたくさん人がいるなと思ったが、15分も自分のペースで歩けば、もう視界には誰もいない。暗い。寒い。怖い。暗い。むかし木材を運び出すために整備されたレールの上を歩く。足元の人工物だけが心の支えだ。
トロッコ道は、小川を越える橋にもなっている。手すりはない。
高いところはキライなんだよ。
7時半ころ、ようやく空が明るくなる。同時に、平坦なトロッコ道が終わり、ここからは雪道を登る。
簡易スパイクをはいて、ずんずん進む。
巨大切株の中から空を伺う。
整備されてはいるが、なかなか急坂も多い。
うお、かっこいい。夫婦杉。
ついた。
普段は混み合うであろう、縄文杉を見るためのウッドデッキ。先客はおじさんが一人だけ。いろんな角度から縄文杉を眺め放題。これはぜいたくな時間だ。
見終わればさっさと帰る。縄文杉は往復10時間の行程だ。歩くのに飽きてきて、誰もいない道をざくざくざくと大股で歩く。
シュゴー。エネルギー切れの体に甘いカフェオレが沁み渡る。
14時前にバス停につく。予定より一つ早いバスに乗って宿に帰る。おかあさんが料理の仕込みをするところをカウンターから眺める。オーブンがたまに蒸気を吹き出して、ブェー!!とへんな音を立てるのを笑って見ていた。
お腹が減ったので、早目にご飯にしてもらう。相変わらず、品数が多い。他の宿泊客と、トレッキングの情報交換して、ハートランドを飲んだらすぐ眠くなった。
翌朝。
さて、屋久島の名所はまだまだたくさんある。ヤクスギランドは隠れた名所と聞く。てごわいモッチョム岳に挑むという手もある。だけど今日はやめた。せっかく屋久島まで来てもったいないけど、何もしない。今日は大晦日なのだ。
そのかわり、空港近くにある温泉まで2時間ほどゆっくり歩いていく。途中、幅の狭い川がいきなり海に注ぐような景色があって、島だなと思った。案の定、風呂は貸切状態だった。ヒノキの大きな露天風呂を独り占め。誰も入ってこない。ぬるめの湯が心地よく、たまに飛行機の発着音を聞きながら、1時間半くらいゆっくりとつかっていた。昨日、一昨日の疲れが抜けていく。
昼飯は屋久島らしさとは無縁のカツ丼。
宿に戻り、居間でのんびりしていたら、スイスから来た人がおしゃれなものをくれた。体感的には、いまこの島にいる3人に1人は外国人。
今日の夕飯も、もちろん宿で食べる。豪華だ…!
「年末年始に旅行してるってことは、実家に帰らないんでしょ?一日早いけどおせち風に盛り付けといたから」とおかあさん。
「さあさあ、今晩は特別に3種類の焼酎を開けるよ。飲み比べしてね」とおとうさん。それは、あなたが飲みたいんですね。ささやかな宴会が始まる。
山で食べなかったチキンラーメンで、年越しそばにする。ほかの宿泊客たちは、町まで降りて、神社の奉納太鼓を見にいくらしい。誘ってもらったけど、いい心持ちでもう歩き回りたくはない。少し寂しいけど、おやすみ。よいお年を。
元旦。そして滞在最終日。
あけましておめでとう。おとうさんの車で、宿泊客みんなで、港まで初日の出を見にいく。
最後の朝飯まできっちりうまい。
「屋久島に一度来た人はね、必ずまた帰ってきてしまうんだよ」と去り際におとうさん。そういうものなのだろうか。俺は考え込む。
小さな空港で、愛想という概念を忘れてしまったおばさん相手にトビウオ丼を注文する。そしてまた考える。屋久島は素晴らしいところであった。滞在中は常に充実していたし、自信を持って人におすすめもできる。ただ何というか、俺はやりきった感がある。この島で何かを我慢をしたり、諦めたり。譲り合いをしたり、順番待ちをしたり。そういったことからとにかく無縁であった。一度屋久島に来た人がまた来たいと思う気持ちは、少なからず満たされなさからくるものではないだろうか。その点俺は、何かをやり残したという感じがまるでしない。もちろん本当にいい季節の屋久島をいつか見てみたいという気持ちはあるけど。
ガイドブックによれば、屋久島は世界屈指の自然遺産の島。春は新緑がまぶしい。夏は海や川でも遊べる。秋は紅葉。あと冬は、あんまり人がいなくてちょっとぜいたくな気分です。
おとうさんおかあさんの宿はこちら。
屋久島のベストシーズンはいつなのか 前編
師走。あと数日で新年を迎えようかというくらいの年の暮れ。俺は港にいた。
たぶんあの船のうちのどれかに乗って、俺はこれから屋久島にいくのだ。
待合所にアナウンスがかかる。今日は波が高く出航が遅れている。という。
屋久島は鹿児島市から2時間弱の距離だけど、外洋に出るため海が荒れやすく、船の遅延・欠航は日常茶飯事らしい。
手持ち無沙汰で、手元のガイドブックをめくる。曰く、屋久島は世界屈指の自然遺産の島である。ベストシーズンは新緑のまぶしい春。だが夏は、海や川も楽しめて屋久島の自然をフルで味わえてお得。もともと雨の多い屋久島にあって晴天率が最も高く、紅葉も楽しめる秋も捨てがたい。なるほど、なるほど。それで、冬は。冬はどうなんだ。この年の瀬にしか休みの取れなかった悲しい勤め人は、どのように屋久島を楽しめばよいのだ。
というかそもそも、もしこのまま船が出なかったら市内で泊まるところを探さなければ。島の宿にもキャンセルをいれないと。それなら明日の朝の船も予約して…とぼやぼや考えているうちに、ぴんぽんぱんぽん。出航だ。錨を上げて、帆を立てろ。
高い波を切り裂いて、船はびゅんびゅん滑る。ジェットフォイルというやつだ。時速80kmで海面を飛ぶのだ。海面を高速道路並みのスピードで走るのだ。これはなかなか他では味わえない、爽快な乗り物である。しかし俺は船に弱いので、目を瞑りじっと座していた。
到着。鈍色の空と、ボツボツと粒の大きい雨に迎えられる。屋久島は市内よりも心なしか暖かい気がする。少なくとも本州よりは確実に暖かい。
この日は宿に直行。宿は大事である。何せ年末年始をそこで迎えることになるのだから。町の中心部から少し離れているけど、新しくてこじんまりしていて、個室のあるところにした。
海沿いの坂道をぐんぐんと登る。あれだ、見えてきた。東京から移住してきたというご夫婦がオーナーだ。二人揃って出迎えてくれる。おとうさんはよくしゃべる、サービス精神の塊みたいなひと。おかあさんは江戸っ子らしくチャキチャキしてるけど、言葉の一つ一つが優しいひと。
この日は疲れたので町には出ず、宿の夕食をいただく。
うひゃあ、うまい。名物のさば節を使った和え物から、地魚の刺身に焼き物、裏庭の原木からとったしいたけなど。怒涛のご馳走だ。おかあさん、料理上手ですね。
「ビールもいいけど、せっかくの屋久島だからね」と。
おとうさんからのサービス。「三岳は日本中で買えるけど、お湯割りが飲めるのは屋久島だけ。なぜなら屋久島の水が一番合うから」。うんちくを語るおとうさん。「サービス、サービス!」と結局、3杯もいただいてしまった。明日は早朝から山に登るのでこのあたりで失礼させてもらった。部屋も静かで清潔で、ころんと寝入った。
翌朝。
おかあさんのつくったお弁当をもって山に入る。標高が上がれば雪が積もる場所もあるらしい。簡易スパイクをはく。
白谷雲水峡。
道は整備されていて歩きやすい。
もののけ姫の作画の参考にされたとされる森。
ジブリが人気のアジア各国からの観光客も多い。
ハイシーズンには渋滞ができるほどというが、今なら自分のペースでぐんぐん進める。
あたりが一望できる人気のスポットも、独り占め。こんなにゆっくり写真が撮れることはないようだ。
屋久島のシンボルといえば縄文杉に違いはないが、辿り着くまでの行程を考えるとそう安易にはおすすめできるものではない。そこいくと白谷雲水峡はアクセス至便。行程ゆるやか。見どころ満載。この写真の弥生杉なんて、バス停からものの15分で拝めるのにたいへん立派なものである。
下山すると、おとうさんが近くまで迎えに来てくれるという。「早かったね、さすが若者!せっかくだから、暇なら島をぐるっと車で回ってみる?」親切な申し出に乗っからせてもらう。
海亀が産卵する海岸(雨)
灯台から眺める入江(雨)
屋久シカ(曇り)
滝(小雨)
高台からの眺め(晴れ)
島をぐるっと1時間半、ガイド付きの豪華な周遊ツアーだった。相変わらず天気が悪いことを除けば最高にぜいたくな時間だ。夕飯は町で食べてみたかったので、途中で車から降ろしてもらう。おとうさんは頼まれてもいないのに、別のトレッキング帰りの宿泊客の様子を見にいくらしい。きっと生来の世話焼きなのだ。
さてこの日の夕飯は、島一番の居酒屋ともいわれる「若大将」である。ここの主な特徴としては、若大将が西郷さんに激似である。もうヤケクソにそっくりである。鹿児島に住む人間が西郷さんに似ているというのは、ネタとしてはベタすぎるし、本人はどう思っているのだろう。「似てますね!」と1万回くらいは言われているだろうから、触れないほうがいいのか。いやいや、ここはちゃんと似てますねと伝えるのが観光客としての正しい振る舞いだろうか。正解が見出せぬうちに料理がくる。
魚がとにかく全部うまい。写真4枚目のお茶漬けなんか、これまたヤケクソのように刺身がてんこ盛りでおかしい。名物の「首折れサバ」が不漁だったことだけが心残りである。
死ぬほど腹がいっぱいで、ふらふらしながら宿へと歩いて帰る。風呂から上がると、おかあさんがお茶を入れてくれた。ありがとうおかあさん。おとうさんも、今日は車でいろいろ連れて行ってくれてありがとうね。「僕はこの島を愛しているからね、屋久島にきてくれる人には、可能な限り島のいいところを伝えたいんだよ」。それにしたって、親切心にも限度というものがあると思うが、それもこれも、人の少ない閑散期に来たからこその幸運なのだろう。
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後半へ続きます。
ちょっとビール買ってくるわ、アメリカで
アメリカのクラフトビールが大好きである。したがって渡米したときはいつも、しこたまビールを飲んでしまう。たとえ時差がつらくても。帰りのフライトが早朝便でも。自分を追い込むように、必要以上に飲んでしまうのだ。しかし当然ながら、滞在中に飲めるビールの量には限りがある。そこで先日アメリカを訪れた際、俺はこの愛しいビールたちを日本に連れ帰ることにした。
え、お酒って海外から持ち帰れるの?と疑問を持つ人もあろう。なに、簡単なことである。スーツケースを開ける。ビールを入れる。スーツケースを閉める。ほらね。キリンを冷蔵庫に入れるようにシンプルだろう。
ビールをスーツケースに詰めるためには、ビールを買わなければ話にならない。まずはスーパーマーケットへ。どんなスーパーでもよいのだが、大規模な店舗であればなおよし。下の写真のように、きっと素晴らしい景色が拝めることだろう。
壁一面のビールという絶景。この30mほどのショーケースのうち、ざっと8割がいわゆるクラフトビールである。圧倒的、というかもはや暴力的な品揃えだ。
アメリカのビールといえば、バドワイザーを抜きには語れない。単純に世界一の生産量を誇るビールであり、マクドナルドやコカコーラと並んでアメリカを象徴するメガブランドの一つである。しかし同時に、アメリカは個性豊かなクラフトビールの一大市場でもある。なんと全米ビール市場のうち、クラフトビールは金額ベースで24%を占め、その額は276億ドル(約3兆円!)にのぼる。単純比較はできないが、日本のビール大手5社の売上合計、3.3兆円に匹敵すると考えるといかに規模が大きいかわかる。
クラフトビールの存在感は数字の上だけでの話ではない。バーやレストランはほぼ間違いなく地元のビールを揃えているし、スーパーで地元のビールを買うとレジで「いいの選んだね、これは最高だよ!」とかやたらと嬉しそうに話しかけてくる。反対に近隣の州のビールを買うと「あら、こんなビール初めて見たわね」みたいな嫌味を言われたりもする(もちろん冗談ぽく)。
日本でも何度かのブームを経て、ずいぶん身近な存在となったクラフトビール。だが地域への深い愛情をもつアメリカの場合はもはやブームなどではなく、生活にしっかり根付いた文化と呼べる域まで達しているのだ。
スーパーの陳列棚もやたらと"LOCAL"推し。
ビールたちの過剰な主張
さて種類が多いのは喜ばしいのだが、これだけの品揃えから選ぶとなると大仕事である。とりあえず一本ずつ買って、できるだけたくさんの種類を揃えたい気もするが、ビールの小売は6缶セットが基本なのだ(バラ売りも一応ある)。
こんな風にキャップ付きか、箱入りになっている。スーツケースの空きスペースを考えると、これは厳選しなければならないぞ。
しかし改めてショーケースを眺めると、どれもデザインが凝っている。原色と派手なイラストが乱れ咲き、「俺だ!俺を買え!」という強い主張を感じる。
アメコミ風にパンク風。愛国心を煽るものも。なるほどこれだけ競争が激しいと、まずは缶のデザインで目立っていかないと勝ち残れないのかもしれない。俺もいくつかジャケ買いをしつつ、好きなスタイルや製法のユニークさなどを考慮して、以下の通りお買い上げとなった。
スーツケースにときめきを詰めて
さあいよいよ、35リットルの小型スーツケースに詰めていく。旅先において、スーツケースとは小さな自分の家である。必要な衣類や下着、衛生用品、緊急用の薬、各種電子機器に電源ケーブルなど、少しでも自宅と同じように安全かつ快適に過ごすための道具を、最小限にまとめたのがスーツケースなのだ。ではこのスーツケースの空間を最大限生かすにはどうするか。ここはもちろん、米国人をも唸らせた、こんまりメソッドである。
今回、俺は人のカネで渡米している。平たく言えば出張というやつで、往路のスーツケースには先方への手土産や、相手方に渡す資料、サンプルなどのビジネスライクなグッズがぎっしり入っていた。これらはこんまり先生のいうところの、まったくときめかないものであるので、出張の道中でさよならしてきた。さらに旅人御用達のテクニック、「古い下着捨てて帰る作戦」で大量のときめかないものとお別れだ。よし、スペースできた!
ではまず、緩衝材を敷き詰める。なぜこんなものがあるのかというと、普通に俺が日本から持ってきたからだ。
続いてときめきを並べていく。一つ一つ、丁寧に。やはり片側では収まらなかったか…。今晩のうちに少し飲んでしまおう。今回は持参するのを忘れてしまったが、大きなゴミ袋を使うのもよい。缶をゴミ袋の中にすっぽり被せてからスーツケースに収めれば、万一の流出事故でも被害を多少軽減してくれる。
それから大事なのは、とにかく隙間を埋めること。まずは柔らかい箱などで大きなスペースを潰す。
ついで、丸めた靴下やお土産のお菓子などでさらに小さな隙間をぎゅうぎゅう詰めて、固定する。
最後にシャツなどの大きめの衣類で全面をカバーする。お見苦しい洗濯物で申し訳ない。
以上、世界一ときめくスーツケースのパッキングが完了である。ときめき総量がインクレディブルな感じになってしまった。とても出張帰りのかばんとは思えない。あとは中身の無事を祈って持ち帰るのみ。
俺はうまいビールを手に入れ、納税者になる
国をまたいで酒を持ち込むというのは、ほぼ世界中で何かしら制限のかかる行為である。であるからして、こうして記事にまとめる以上、とにかくリーガルにいきたい。その上で関門は2つある。
①まずは出国時の機内持ち込み。
当然のことながら、液体なので預け入れ荷物となる。ここで航空会社の重量制限をパスしなければならないのは言うまでもない。小さなスーツケースにしては異例の重さだが、ここは問題なくクリア。ただ実はもう一つ懸念があった。それはアメリカにおける航空機へのアルコール持ち込み量制限である。*1
米国政府出版局によれば、要するにアルコール24%を超える酒類には量の制限があるのだが、24%以下に関しては量に関する記載がない。ビールはもちろん24%に満たないわけだが、これは無制限ということでいいのか…?わざわざ確認してやぶ蛇になるのも嫌だ。だがあとからCIAに付け狙われるのはもっと嫌なので、思い切って空港のカウンターで確認してみた。
「この荷物、ビール入ってるんだけど」
「ああん?ビールだって!?これ全部か!?」
「(このおじさん怖…)重量の半分くらいかな」
「どこのだ!?」
「ほぼテキサス(出国する空港がある)です」
「Wow!!!あんたクレージーだな、最高!わはは」
ということで、無事にパスした。(したのか…?)
②続いて入国時の税関申告。
免税範囲を超えて酒類を日本に持ち込むということは、輸入と同じなので、自分で酒税を払わなければならない。機内で配られる黄色の税関申告書。これに持ち込み内容を記入する。
表面の「免税範囲を超える購入品・お土産品・贈答品など」にチェック。裏面には詳細な本数や量を記入。
荷物をピックアップしたところにある税関申告で、用紙を提出する。
「このスーツケースにビール入ってます」
「はいはい、酒類の持ち込みね…多くない!?」
とここでもアメリカと同じやりとりがある。電卓でかちゃかちゃと計算し、書類を渡してくれる。これをすぐ近くにある銀行窓口に持っていき、現金を支払うだけ。簡単なものである。ポイントはとにかく申告は正直に、ということに尽きる。そもそも2リットル少々までは免税範囲だし、それを超えても1リットルあたりたった200円なのだから。
よし、納税完了。しかし消費税以外で直接税金を払う機会なんて無いから新鮮だ。これが意外と、どうしてなかなかいい気分である。みんな見てくれ、俺は納税者さまだぞ。うまいビールを手に入れたうえ、酒税が払えるなんて最高じゃないか。
ようこそ我が家へ
自宅に着いて、スーツケースを開ける。流出事故は…なし!完璧な状態でビールを持ち帰ることに成功した。早速、冷蔵庫に収納してみる。
これはいい眺めである。アメリカからきたスター軍団のビールが、我が家の冷蔵庫を埋め尽くしている。出発前から自宅にいた、第3のビール(本麒麟)はちょっと所在なさげだ。ごめんね、君の普段の働きにはとても感謝しているよ。
・・・
いかがだっただろうか、アメリカからビールを買ってくる方法。本当に身も蓋もなく、スーツケースに入れるだけなのだけど。最後に今回買ってきた中で、ひときわユニークなビールたちを紹介したい。アメリカのクラフトビール、派手なのは外観だけではない。生き残りをめざす中で、味の方向性もどんどん先鋭化された、クレイジーなやつらだ。以下、厳選した4本である。
こちらはウィートと呼ばれるタイプのビール。小麦を使ったビールというのは優しくて甘くてまろやかな風味が多いのだけど、まずゴリゴリに味が強い。パンかビスケットを食ってんのかというくらい小麦が強い。そしてそこにオレンジ風味が効いている。アクセントとかではなく、小麦風味と真っ向から殴り合うかのようにオレンジが効いている。ようするにめちゃくちゃ濃い。そしてうまい。
これはサワーと呼ばれるタイプ。サワーの主な特徴としては、死ぬほどすっぱい。ただギンギンにすっぱい中で、副原料のラズベリーがちゃんと生きている。ラズベリー風味というのは何か。酸味である。酸味に酸味をぶつける。酸味天国、あるいは地獄。うまいのか?それは俺にはよくわからない。
これはゴールデンエール、俺の大好きなタイプ。ゴールデンエールにはあっさりライトと、どっしり重たいのがあるが、これは前者。しかしこいつの場合は、なぜかそこにバニラフレーバーが加わっている。味はなんというか、未知。もう飲んだのに、今も未知。人類にはすこし早かったのかもしれない。
これはベルジャントリペル呼ばれるタイプ。ベルジャンというタイプ自体は優しい甘みで大好きなのだが、トリペルとつくと急にアルコール度数が暴力的になる。これも10%を超えているので一発でべろべろに酔う。ノックアウトされる。ただうまい、ものすごく濃くてうまいぞ。いや、ホントに飲んだっけな。記憶が曖昧だな。
クラフトビール革命 地域を変えたアメリカの小さな地ビール起業
- 作者: スティーブ・ヒンディ,木内敏之(木内酒造合資会社取締役),小野英作,和田侑子
- 出版社/メーカー: DU BOOKS
- 発売日: 2015/07/03
- メディア: 単行本
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*1:https://www.ecfr.gov/cgi-bin/retrieveECFR?gp=1&SID=bba5ad06518b529c94e1d67a3270196b&h=L&mc=true&n=pt49.2.175&r=PART&ty=HTML
(i) Not more than 24% alcohol by volume; or
(ii) More than 24% and not more than 70% alcohol by volume when in unopened retail packagings not exceeding 5 liters (1.3 gallons) carried in carry-on or checked baggage, with a total net quantity per person of 5 liters (1.3) gallons for such beverages.
フルーツポンチよ自由であれ
10月にして、しつこい夏の気配がようやく去った。今年は涼しい日が数日続いても、すぐに暑さが盛り返してきていたが、もはやこれまで。2019年の夏、完全撤収。ところで俺はこの暑い夏を乗り越えるにあたり、フルーツポンチばかり食べていたことを、ここに報告させてもらいたい。
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はてフルーツポンチとはなんだっけな。むかし、実家の冷蔵庫の二段目には、よくフルーツポンチが入ってた。半透明のでかいタッパー。缶詰の果物。ミルク寒天。べたべたに甘いシロップ。定番の、安っぽいおやつ。でも俺が夏ごとせっせとこしらえていたフルーツポンチは少し違っていて。なんというか流行りの言葉で言えば、もう少しクールでセクシーなやつなんだ。
基本構成要素。フルーツが主役であるわけだけど、カットフルーツで十分。もちろん生のフルーツを買ってもいいけど、これは剥かなくていいし切らなくていいので最高。しかもスーパーで夜に買うと30%オフなのだぜ。
この日はパインとスイカを主役に。個人的にパインは、フルーツポンチにおける四番打者。甘くてジューシーで、当たり外れが少ない。率が残せるタイプの四番だ。
脇を固めるのは冷凍フルーツ。最近、コンビニで便利なのが売ってる。
こういうのを自宅の冷凍庫でベンチ入りさせておくと、選手層が厚くなってよい。今日はユーティリティプレーヤーのブルーベリーを起用。
ソーダで、爽やかさを。
プレーンな炭酸水は無難。だけど果汁入りもさっぱりしていい。好みに応じて、キリンレモンとかスプライトのような甘いソーダでも。
さあ、グラスに盛り付けて。グラスは、そうだな。できれば広口で短い足のついたやつがいいな。
一番下にロックアイスを入れておくと、いつまでも冷たくていい感じ。
ソーダを注ぐと、ブルーベリーの色が移って思いがけずきれい。
甘酸っぱくて冷たくておいしい。暑くて食欲がなくてもさっぱり食べられるし、なんとなくビタミンが摂れてる気分になる。でもフルーツポンチの一番えらいとこは、とにか自由で懐が深いということ。なんでも好きな果物をいれて、自由にアレンジしながら、毎日でも食べることができる。
・・・
たとえばとある月曜日。週初めというのはなぜか忙しい。ただでさえ休み明けで気が乗らないのに、ぐったりきてしまう。そんなときはこれで気分をアゲるよ。
キッチンばさみで半分に。あとはスプーンで適当にくり抜いて。
さくせんは「あらいものをすくなく」。
アゲリシャス。
アゲアゲリシャス。
月曜が忙しいときはたいてい、火曜も忙しい。ということで、今日は好物のグレープフルーツで。
きれいに薄皮が剥けるとうれしい。意外とたっぷり量があるからな、
今日はグレープフルーツだけで、
いいかなと思ったけど、
そういえば冷凍庫にガツンとみかんが一本残っていたのだった。フルーツポンチは懐が深いやつだから、ラフに突き刺してしまおう。
水曜日。午後から雨が降り、蒸し暑さがよみがえる。俺はこの暑さを逆手にとって、夏の名残を楽しむ。
たっぷりの角切りりんごにラムネ。からんころんと瓶を傾ける。
いつもは無糖の炭酸水ばかりだけど、やっぱり甘いソーダのフルーツポンチもいいな。
木曜日はぶどうが主役。
このぶどうは皮ごと食べられる、気の利いたやつです。
まだ木曜だけど、こういうのもいいでしょ。
だって本来、フルーツポンチというのはアルコール入りのカクテル的なデザートらしいですよ。ちょっとフライングだけど。プチ週末気分ということで。
さあいよいよ金曜日。みんな、おつかれ。今夜はパーティーだ。
ふひひ、プレミアムにいこうぜ。
桃あっま。バニラアイスうっま。これ別にソーダは必要なかったな。
・・・
と、まあこのようにフルーツポンチを自由に楽しんだ夏だった。でも、おいしいものはいつ食べてもおいしいので。皆様におかれましても、実りの秋にはよいフルーツポンチライフをお過ごしください。
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先生、チゲ鍋はカレーに含まれますか
最近、iPhoneで撮った写真の管理をGoogleフォトに切り替えた。主にストレージの容量を食わないための施策だったが、思いのほかよく使うようになったのはキーワード検索の機能。「時計」や「赤ちゃん」などのキーワードを打ち込むと、ちゃんとその言葉にあった写真をピックアップしてくれる。もちろんiPhoneのフォトアルバムにも同じ機能はあるけど、Googleのほうがまさに探している写真を探し出してくれることが多く、さすがは検索エンジン界のガリバーの面目躍如といったところ。
例えばこんな具合に、いつもビールばかり飲んでることもすぐわかる。
ただ先日。以前食べておいしかったカレーの写真を探していたところ思わぬ脆弱性を見つけた。Google先生、恐らくカレーが苦手でいらっしゃる。
先生の実力を計る
もちろんそこは天下のGoogleですから?ユーザーが満足できる一定のレベルはきちんと担保されているわけです。では早速、第一問。これはなんでしょうか。
Google「カレーです」
失礼失礼、簡単すぎましたな。では少し難度を上げて。
Google「カレーです」
おお、流行りのスパイスカレーも守備範囲ですか。ではこちらは?
Google「カレーです」
素晴らしい。てっきり色味で判断してるのではと踏んでおりましたが、こういうグリーンカレー系もいけるのですね。では先生、これはどうですか…?
Google「カレーです」
すいません、先生を試してしまいました。これ、カレーのように見えてハヤシライスなんです。ふふ、意地悪してごめんなさいね。
このように、先生はカレーを正しくカレーとして認識する能力をお持ちだ。間違えたハヤシにしたって、ちゃんとカレーらしい要素を見つけてカレーと判断しているのだ。さすがの実力。ただ問題はここからである。
カレーの拡大解釈がすごい
俺のフォトアルバムの中から、先生がカレーとして提示してきた画像はおよそ50点。そのうち本物のカレーは…実はたったの10点だけである。つまりあとの40点は、人間にとってはカレーではないのだが、Googleはカレーだとおっしゃるわけである。先生らしくもない、一体どうされたのですか。
例えばこちら。先生、お気持ちはわかりますが、これはカレーではございません。チゲ鍋でしょう。
Google「カレーです」
先生!それはウズベキスタンのラグマンでございます。一見カレーに見えなくもないですが米ではなく、野菜たっぷりでトマト風味のおいしい麺料理でして。
Google「カレーです」
先生、恐れながら申し上げます。こちらはモンゴルのスープ、羊と野菜を煮込んだノゴトイシュルでは。
Google「カレーです」
なんだかどれも絶妙なラインをついてくる。薄目で少し離れたとこから見たら、まあカレーかなっていう気がしないでもない。ただ学校の給食でカレーの日にこれらが出てきたら、子どもたちはもう一日中悲嘆にくれるだろう。特にノゴトイシュルなんかは「ルウを入れ忘れてます!」って猛抗議がありそうだ。だが、Google先生の拡大解釈はこんなものでは止まらない。
先生…これは中国甘粛省がルーツの蘭州牛肉麺です。最近日本でも静かにブーム到来で、手延べ麺に澄んだ牛骨スープ、辣油のアクセントがクセに…
Google「カレーです」
これはボルシチですからね!ロシア料理の代表的なスープで、トッピングされたサワークリームを溶かすとたっぷり刻んだビーツの甘みが際立つ!
こっちは台湾の牡蠣オムレツ、蚵仔煎!屋台の定番料理の一つで牡蠣の旨味に甘辛のタレがよくあうから、ボリュームたっぷりでもペロリといけちゃう…!
これはエジプトのコシャリーーー!!コメ、マカロニ、パスタのハイカーボ三重奏!!そこにトマトソースが抜群の相性でフライドオニオンもいいアクセント、ジャンクな味付けがクセになるうまさーーーー!!!
Google「全部カレーです」
なんでカレーの解釈をそんなにグローバルに広げようとするんだ先生。俺があちこち旅して回って、あれが美味いこれも美味いと喜んでいたものは、全部カレーだったのか。(ちなみにコシャリと牛肉麺は現地ではなく日本のお店です)
カレー戦国時代に終止符を打つ者
ここでふと思い当たった。カレー業界では最近、「麻婆豆腐はカレー」*1というラディカル派閥が勃興していると聞いたことがある。
人気ジャンルの宿命とも言えるが、カレー界の派閥争いはもはや泥沼化している。日本向けにアレンジされたカレー派 VS オリジナルを尊重するスパイスカレー派の争いを主戦場として、その代理戦争たるナン派とライス派の戦いもまた収束の気配が見えない。一方でサラサラ派とドロドロ派の小競り合いも各地で頻発しており危険な火種だ。まさにカオスである。まさに群雄割拠である。では翻って、このカレー戦国時代にあってGoogle先生の教えはどうだ。
カレーに貴賤なし。汝の隣家のカレーを愛せよ。天はカレーの上にカレーをつくらず、カレーの下にカレーをつくらず。チゲ鍋はカレー。ボルシチもカレー。すべてはカレー。諸行カレー。
なんと寛容な考えであることか。Googleの前では、ドロドロもサラサラも関係ない。カレー戦国時代を終結させ、太平の世をもたらす救世主はGoogle先生しかいないのかもしれない。
ところで先生、これは何ですか。
Google「カレーです」
先生、それは紅茶です。もしかして先生は異端の中の異端と目される「カレーは飲み物派」をも救おうというのだろうか。そうだとすれば慈悲深すぎるし、ディープラーニングがすでに恐ろしい領域まで来ている。
ふん。ラーメンというのかい?
せっかくなので、この勢いのまま先生の寛容さを「ラーメン」でも発揮してもらうことにした。日本人の二大国民食、揃い踏みである。
こちらはどうですか、先生。
Google「ラーメンです」
まあ、このあたりは基本ですね。こちらはいかがでしょうか?
Google「ラーメンです」
そうそう、日本には地域ごとに多様なラーメンがあるのです。ここで下手な判断をすると戦争が起きますからね。お次はどうですか。
Google「ラーメンです」
ご名答。そうなのです。お店で食べるのもラーメンですが、家庭で食べるインスタントもまた正しくラーメンなり。これが日本のラーメン文化。しかし先生。これはどうなんでしょう。
Google「ラーメンです」
いや、まあね。少し難しいのはわかるけど。うーん。いいでしょう。このさい蕎麦もうどんもラーメンです。それが寛容な心というものですよね。なぜニシンそばの画像検索をキャプチャしていたのかについては今は内緒です。
でもね、先生。さすがにこれは黙ってられませんよ。
Google「ラーメンです」
いくら先生でも、これは暴挙と言わざるをえない。野菜とラーメンを見間違えるなんて。人間界では、ラーメンは体に悪い食べ物の代名詞。野菜とは対極の存在だというのに…
あれ、なんか最近そういうのtwitterで聞いたな。
ふん。ラーメンというのかい?
— たるはち (@tarupachi) September 6, 2019
贅沢な名だねぇ。
今からお前の名前はサラダだ。いいかい、サラダだよ。わかったら返事をするんだ、サラダ! pic.twitter.com/D2qXqvCBFa
先生…もしかしてあのメガヒットツイートのオマージュだったんですか。敵わないっす。俺、ずっと先生について行くっす。
How Google Works(ハウ・グーグル・ワークス) 私たちの働き方とマネジメント (日経ビジネス人文庫)
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*1:「粘性がありスパイスが効いてメシにあう麻婆豆腐は、もはやカレーである」という革新派の急先鋒