遊牧民のビッグマムは朝一で乳を煮る

この溶けたバニラアイスのようなもの。遊牧民の激ウマスイーツで、ウルムという乳製品です。

柔らかい固形部分を、揚げパンや食パンに乗せ、軽く砂糖をかける。するとどうでしょう。あら、最高ですね。

味は、バターのような、生クリームのような。濃厚なんだけど優しくて。乳の本来の役割である、仔の命を繋ぐための滋味にあふれている。そんな感じがする。

さて今日は特別に作りかたを紹介します。







まず、ゲルを用意します。

大きくて、煙突がついているものを選びましょう。

はい、大鍋。これはなかなかいい大鍋ですよ。

今日のシェフを紹介します。こちらのビッグマムです。

遊牧民の朝は早い。一日は乳搾りから始まる。

早いと思ったら、まあ6時半だった。都内で働き、郊外に住む平均的サラリーマンくらいだ。

この搾りたての新鮮な牛乳がウルムの材料。

では、かまどに火をくべましょう。

紙から薪へと火を移す。彼女にとっては毎朝の仕事。慣れた手つきで着火する。

今日は、なんだか、火の勢いがいまいちね。

あ、文明の利器。

熾火でじっくりコトコトいきましょう。

膜が張ってきましたね。

大量なので温まるのにもとにかく時間がかかる。












いかん、ウトウトしていた。8月といえど、早朝の気温は一桁まで下がる。かまどの暖かさに気が緩む。

鍋にあまり動きがないので、外の様子を伺います。

わーい、みんな待ってー

子どもはかわいい。


大人はすこし怖い。


俺たちはお先に朝メシにするべえ。


なかなか次の工程に進まないね。


ビッグマムが動いた!急いでゲルに戻る。

何か乳白色の液体が鍋に入った。いまのところ小麦粉を水で溶いたものという説が有力。


ひしゃくでミルクを何度もすくい、たっぷり泡立てる。


おりゃー。


もこもこもこ。乳の香りが立ち上る。


あんた寒いのかい、と炊いている途中のミルクを勧めてくれた。まあ、これはシンプルなホットミルクですね。


引き続き火にかける。だいぶ外も暖かくなってきた。


泡が弾けていったあとに、うっすらと湯葉状の膜が。なるほど、この乳脂肪分のかたまりがウルムか。


こうやって鍋一面にウルムが広がるのを待つ。いまウルム率、60%くらい。

そしてついに。

やった、ほぼ全面がウルムに。ここまで3時間近くはかかっている。


ではビッグマム、早速できたてを一口もらおうかい。

「ノーノー、トゥモロー」






なんと。いまのウルムはぺらぺらの幼ウルムとでも言うべきもので、これからさらに時間をかけて分厚い大人のウルムになるのだという。



ということで、昨日作ったウルムを再びいただいた。ホントにうまいなこれ。






ウルムは各家庭でつくる料理。お店で売っているようなしろものではないらしい。お土産にすることができないのは残念だけど、ここでしか見られないものを見ることができたともいえる。

われわれはツーリストだ。ツーリストは、お金を払ってゲルに泊まっている。何をしていても自由なのだ。乗馬体験をするのもよかろう。乳搾りをさせてもらうのも楽しい。満点の星空を眺めるのも素敵だ。でも俺は料理を作っているのをぼんやりみているのが、一番好きだった。




たまたま各自の仕事が落ち着くタイミングだったのか、家族みんながゲルに集まってきた。お茶で一息入れて、さあ次の仕事をがんばろうか、という感じ。遊牧民の朝は思ったより早くなかったが、やることはとにかくたくさんあるのだ。

お詫びにセンスがあるとすれば

7月某日。
カフェチェーン店にて。

最近、休みの日にはよくここにくる。コーヒーを頼む。平日にやりきれなかった雑務を片付ける。隣の席が大人数の団体で賑やかなので、イヤフォンで音楽を聴く。

団体さん、帰る。テーブルのうえには皿、皿、皿。若いベトナム人の店員さんが黙々と片付ける。

高く積み上げられた皿とカップ。店員さんバランスを崩す。皿、盛大に割れる。破片が足元に散らばる。店員さん謝る。大した被害はない。俺は気にしないぜ。

席を移動させてもらう。お詫びに、とコーヒーを一杯いただく。なんかすみません。




7月某日。
大阪では有名な居酒屋。

この日は仕事が早く終わり、同僚と立ち寄る。人気店なので普段は大行列だが、今日は早い時間なのですんなりと座れる。魚がうまい。でたらめに安いのにうまい。

日本酒を頼む。カウンターに大きな湯呑みが置かれる。店員さんが一升瓶から注ぐ。なみなみ注ぐ。おお、なみなみだ…と思っていたら、そのまま盛大に溢れた。膝びしょびしょ。店員さん大慌て。カウンターの奥で大将が怖い顔している。すぐにおしぼりが山のように出てくる。どうせクリーニングに出すつもりだったのだ。俺は気にしないぜ。

お詫びに、とマグロのいいところの刺身が出てきた。恐縮する。





7月某日。
立ち飲みの居酒屋にて。

オープンして間もない立ち飲み居酒屋。真新しいぴかぴかのカウンター。友だちと早い時間から飲み始める。

野菜が食べたかった。グリーンサラダを頼んだ。仲間うちで取り分けて、おいしく食べていたら、端っこにいた女の子が小さく鋭い悲鳴をあげた。

サラダの中になめくじがいた。小指の先ほどの小さなやつ。にょろり。

健康な野菜の証拠だ。俺は気にしないぜ。でも今日は一人じゃないから。特に女性陣は嫌がるだろうな。店長が丁重にお詫びにくる。



「先程は申し訳ありません。これ、さっきのお詫びでしてよろしければ…」









このビジュアルは、さすがに気になるな。


お詫びという行為そのものについては100点の対応だけど、もしお詫びにセンスというものがあるとすれば、これはまさに赤点レベル。しかし店長さんはいたって真剣な表情なのである。真剣に謝っているのに、清々しいほどにハズしている。この状況がシュールすぎて、思わず笑ってしまった。



つぶ貝は、おいしかった。

1万人が熱狂するお茶の祭典

世は「フェス全盛」の時代である。日本におけるフェスのさきがけといえば音楽フェスだが、昨今は「ビアフェス」や「肉フェス」に代表されるように、さまざまなグルメをテーマにしたフェスが次々に生まれている。一年中、全国のどこかで何かしらのイベントが行われ、グルメフェスが国民的娯楽の一つとして定着してきた感がある。ではここで問題提起。「お茶フェス」というのはどうだろう。

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ハレの日だから、ハレのテーマ

たしかにフェスは楽しい。同好の士で空間を共有する一体感。大好きなもの一色で塗り固められた会場への没入感。年に一度、決められた時期に行われる祝祭感。どれをとっても、まさにハレの日。コト消費の申し子である。

だがその性格上、フェスには明るく賑やかなテーマ設定が求められるのも当然のこと。音楽フェスならいいが、詩吟フェスはたぶん盛り上がりに欠ける。肉フェスはアリだが、はんぺんフェスではちょっと弱い。ためしに世にどんなフェスがあるかざっと調べたところ、出るわ出るわ。派手なフェスが。

ビアフェス、肉フェス、激辛フードフェス、餃子フェス、ピザフェス、ラーメンフェス、B級グルメフェス、からあげフェス、スイーツフェス、チョコレートフェス、カレーフェス…

ほら。なんか全体的に誕生日のオードブルみたいなラインナップ。一つとして教室の端っこでじっとしていそうなものはおらず、全員、陽キャラ。ハレのイベントに、ハレのテーマ設定はある意味当然なのだ。

 

お茶フェスは成立するか

で、「お茶フェス」である。お茶…きみは本当にメインが張れるの?集客できるの?

いや、個人的にはお茶は好きなほうだ。ただ贔屓目に見ても、華がない。お茶は、良識ある紳士淑女にこそ愛されるもの。そして一服の安らぎを与えてくれるもの。上品さと優雅さが身上のお茶に、祭りの盛り上がりを期待するのは荷が重いというものである。

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お茶で大騒ぎなんて、ボストン茶会事件しか知らない(ボストン茶会事件-Wikipediaより)。

 

しかし結論としてこの疑念は、大いなる杞憂であった。楽しい。盛り上がる。お茶フェスは完全に成立する。会場を包んでいたのは静かな熱狂と、お茶への深い愛情であった。

 

 

世界のお茶、大集合

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イベントの名を、ルピシアグランマルシェという。なんとこの通り、会場は満員御礼である。決して小さな会場ではない。なにせここ、先日G20サミットが行われたインテックス大阪である。トランプと安倍首相と習近平が小さな長机で物理的な接近を見せた、あのインテックス主催者発表から類推すると、ざっと1万人近くを集客しているようだ。ここには塊肉もビールもない。1万人がこぞって、お茶をしにきているのである。

来場者のお楽しみはなんといっても、会場の中央部を占めるお茶の試飲ゾーン。飲み放題の、時間無制限である。新しいお茶が淹れられるとスタッフが大きな声でお知らせし、そのたびに人の波がどわーっと押し寄せる。押し寄せる…のだが、さすがお茶ファンは根っからの紳士淑女である。みんなお上品に、譲り合いながら行儀よく並ぶ。

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「あら、ごめんあそばせ」

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「いいえ、よろしくってよ」

 

 

ただ、あくまで表面上は平静を装いつつも、お茶ファンたちの心のうちは浮かれまくっているはずだ。なぜなら会場には120種類以上にもおよぶお茶が試飲用に用意されているのだ。紅茶、緑茶、中国茶などはもちろんのこと、ハーブティーや野菜由来のノンカフェイン系も充実しており、思いつく限りすべてのお茶が、世界中からここに集結している。

 

デカフェアールグレイはあるかしら?」

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あるよ。

 

キンモクセイの華やかな香りの烏龍茶、『黄金桂』が飲みたいんだけど」

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あるよ!

 

「深みのある香ばしさと豊かな甘み。頑固一徹、焙煎士がこだわり抜いて二段階火入れのほうじ茶、『鬼の焙煎』は…」

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あるよーーーーー!!!!

 

 

さらに圧巻なのが、スイーツ系の紅茶である。例えばこの「ストロベリーショートケーキ」。お茶の名前とは思えぬほどファンシーなお名前!風味はというと、無糖なので甘みこそないが、ベリー系の爽やかな香りと、クリームを思わせるもったりとした甘い香りがある。なるほど、ショートケーキか…言いたいことはわかるぞ。さらに「チョコバナナパフェ」。これはバナナの香りがあまりにあからさまで思わず笑ってしまった。もちろん紅茶としては十分においしい。ほかにも「クッキー」、「オペラ」、「アップルパイ」、「マロングラッセ」など、洋菓子店のショーケースさながらのラインナップである。

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一通りスイーツ系紅茶を試飲して、これはよく出来ているとか、ちょっと無理があるとか笑いながら、ふと思った。俺いま、めっちゃ楽しんでいる…!

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買い物天国、あるいは地獄

飲み放題の次は、買い放題である。試飲したお茶は全て、その場で茶葉を購入することができるのだ。誇張ではなく、バイヤーかな?っていうくらい大量の商品を担ぎ歩いている人もそこかしこにいる。かく言う俺も、雰囲気に乗せられてずいぶん買い込んでしまった。だってこのイベント、隙あらば五感に働きかけて物欲を刺激してくる買い物天国なのだ。

 

この缶入り茶葉のコーナーはすごいぞ。

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都道府県(あといくつかの外国)をイメージしてブレンドした茶葉のシリーズだが、缶のデザインがめちゃくちゃ凝っている。

 

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もう、ほれぼれするほど可愛い。

 

ここでは試飲こそできないものの、一つずつ香りを確かめることができる。香りから味を想像するのもよし、ジャケ買いするのもよし。たくさんの候補からどれを買おうか悩むのは楽しいひとときだ。ただ俺にはわかる。これは沼だ。一つ買えば、必ずコレクションしたくなる。そういうタイプの沼。しかもどうせ魅力的な限定品がどんどん出て、一生コンプリートはできないのだ。ということで、強い気持ちでこの買い物アリ地獄への思いを断ち切ってやった。

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ここがフェスのメインステージ

このイベントのエンタテイメント性はここに極まれり。チャイの実演がすごかった。ぎゅうぎゅうの会場の中でも、ここはひときわ人口密度が高い。お姉さんの説明を聞きながら、チャイが淹れられる様子を眺める。ただそれだけなのだが、プロの手腕をじっくりと見るというのは楽しいものだ。音楽フェスのメインステージのように、人が吸い寄せられていく。

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「茶葉を入れたら弱火にするのがポイントです」

 うんうん(みんな無言でしっかりと頷く)。

 

「牛乳が沸騰する直前で火を止めます!」

うんうん(みんな無言でしっかりと頷く)。

 

この静かなコール&レスポンスが心地よい。途中、ダイブ(最前列のお客さんにお茶がハネる)のアクシデントもありながら、15分ほどで甘くスパイシーな香りのチャイが出来上がった。

 

早速、長蛇の列ができるが、もちろん誰一人として列を乱すものはいないため、比較的スムーズに順番が回ってきた。さあ、ライブ感のあるチャイをいただこう。

 

 

 

なにこれ、言葉を失うほど激ウマ…。チャイといっても、実は紅茶ではなくベースがほうじ茶(加賀棒茶)なのだが、これが複雑なスパイスと絶妙にマッチするのだ。この日一番の感動。すぐにアンコールの列に並んだし、即お買い上げした。

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このイベントは愛に支えられている

一通り欲しいものを物色し、心地よい疲労を感じながら昼食を取っていたときに、ふと気付いた。なんか目の前のおばさん、胸のあたりにべたべたと丸いシールが貼ってある。「やっぱり日本茶」とか「紅茶好き」とか書いてある。そう、このシール、来場者が自分の喫茶の嗜好を表現しているのだ。

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スタッフとお客さん、あるいはお客さん同士がこのシールをきっかけにコミュニケーションできることをねらいとしたものだろう。なんかこれ、とてもいいじゃないか。お茶を愛するもの同士、この祭りをみんなで楽しんでいってね、という主催側の深い愛情を感じる。せっかくなので俺も、こんな感じで主張しておいた。

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あー、楽しかった。疑ってごめんなさい、お茶フェス、アリでした。大いにアリでした。帰りがけ、出口にアンケート用紙を見つけた。これだけ満喫させてもらったのだから、さらにいいイベントにしてもらうために、真摯に回答すべきだろう。そう思い、よかったこと悪かったこと、すべて正直に書き連ねて箱に入れた。

 

…が、入らないのだ。アンケート用紙がいっぱいすぎて箱に入らないのである。そんなこと、普通ある?このアンケートは、お茶ファンたちの強い愛がカタチとなったもの。もはや、ラブレターである。携わる人の愛が目に見えるイベントは、とてもいいイベントだということを改めて知る日であった。

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<補足情報>

これだけイベントをPRした挙句に後出しで申し訳ないのだが、実はこのイベント、お茶の専門店であるルピシアの会員向けイベントである。すなわち、誰でもフリーパスという訳ではない。ただ、ルピシアの店舗は全国に100店舗以上ある。しかも「世界のお茶専門店」を標榜するルピシアである。常設店舗でもイベント同様にわくわくする空間を楽しめるはずなので、興味が湧いた方はまず一度、お近くのルピシアに足を運んでみてほしい。そしてよければ会員になってみてほしい。ちなみにグランマルシェ自体は毎年、全国主要都市で順次開催されるため、参加しやすいのも嬉しいところ。

 

<ルピシア 店舗情報>
https://www.lupicia.co.jp/shop/

 

 

 

 

異国のおじさんがデカイ鍋で料理する一部始終

  中央アジア地域には、プロフと呼ばれるコメ料理がある。この話は俺が中央アジアを旅行中に、地元のおじさんが大鍋を振るって百人前くらいのプロフを作っているのを、ただぼんやりと眺めていただけの記録である。

 

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・・

まずは角切りにした羊の脂身を鍋に入れる。じっくりと熱して脂を煎り出す。

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にんじんを刻む。シェフはこのおじさん。気取らない服装に民族衣装の帽子がクール。

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鍋がでかい。とにかく鍋がでかいぞ。直径1m近くある。そしていきなりの開放感。日陰にいるのに、少し横を向くと真夏の強烈な日差しがちらちら目に刺さる。実はこのキッチン、屋外にあるのでした。

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次に、羊肉を塊から切り出していく。

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あ、キッチンの下に子猫。

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こっちおいでー

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おじさんが羊肉を小さく切り分けてくれた。やさしいぜ。

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さて、鍋のなかは今こんな感じ。たまねぎかな?いい色に揚がっている。羊のべったりした脂のにおいと、野菜が焦げる香ばしいにおいが混じり合う。

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余談を一つ。プロフとは簡単にいえば、このたっぷりの油でコメを炊き上げる、炊き込みご飯だ。西はトルコから東はウイグルにいたるまで、イスラム文化圏で広く愛されている料理。地域によってポロ・オシュ・プラオなどさまざまな名前で呼ばれているが、実は日本でもピラフという名前で、しっかりと市民権を得ている。

 

 

さて、ここで肉だぜ。

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ちょっと足りないかな。追い肉だ。

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ここは斧を使おう、なぜなら骨が硬いからね。というくらい自然な感じに斧が出てくる。

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はい、次。

コメです。どうです、この頼もしい量。「合」とか「升」には荷が重いでしょう。

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湯を注ぎ込む。豪快に。

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ざぶざぶざぶ。

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鍋ににんじんを投入。しょわしょわー、といい音。

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水を加えて、煮立てていく。スパイスもたっぷり入れて、うまいスープを作る。暑い国らしい、うまそうな香りが一気にほとばしる。

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おや?君はいきなりなんだ?
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明後日のお昼ごはんとして連れてこられたそうです。めぇー
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余談二つ目。羊はかつての遊牧民にとって大切な財産。もともとプロフはお祝いごとに供される特別な料理だったそうな。結婚式など人がたくさん集まるイベントがあると羊をつぶし、みんなに振舞っていたのだ。ちなみに後ほど、お祈りを捧げてから決められた手順で屠殺される様子も見せてくれた。疑う余地なし、本物のハラルフード。

 

はい、いい感じにコメがふやけました。

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コメ meets うまいスープ。
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どんどんいくぜ。

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塩。

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クミンたっぷり。これ絶対うまいやつだ。

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へらを使って、こんもりとした山にするぜ。

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足元に置いてあったタライをひょいと拾い上げ、フタにする。このラフな感じ。あとは炊き上がるのを待つだけだ。

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そろそろお昼が近い。お腹へりましたね。

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ごはんが炊けるのを待っていたら、若い人たちが次々にキッチンに入ってきた。ハタチ前後の、礼儀正しい若者たち。おじさんと親しげに挨拶を交わす。実はこの場所、町の食堂とかではなく、イスラムの神学校なのだ。校舎は歴史ある美しい建物。観光地のど真ん中にあるけど、今も多くの学生が学ぶ現役の学校ということで、一般には公開されていない。

「おじさん、この人どうしたの?キッチンにいていいの?」

「まあいいんだよ、なんか疲れてたみたいだからな。わはは」

(想像)

 

 

そうそう、この日の気温は40℃超えていた。朝から観光地を徒歩で回ったら、ちょっと体にこたえたのだ。石壁伝いで細い路地にふらふら迷い込んだら、不思議な扉があって、たまたまキッチンで支度中のおじさんと目が合い、なかに招き入れられたのだ。

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イスに座るよう促され、おじさんが料理を始めるのをぼんやり見ていた。お茶や果物など、勧められるがままにいただいた。そのまま厚意に甘えて数時間。キッチンに居座り続けて、ついに学生たちの給食をつくる一部始終を見届けてしまった。

 

途中、通りがかった学生さんの一人が英語で教えてくれた。

「このおじさんはプロフの名人なんだよ。いつもは違う人が給食を作っているけど、プロフのときだけはこのおじさんだよ」

学生さんも嬉しそう。小学校の給食の、カレーの日のようだね。

 

 

よーし、いい具合に炊けたぞ。

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みんな運んでいってくれー
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はい、そこの君も食べていきなよね。

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うまい。数ある油&炭水化物のコラボレーションのなかでも、ベストマッチとも思える。スパイスたっぷりに見えて、味に尖ったところはなく、にんじんの甘みとあいまってとてもマイルドな味付けだ。そして惜しげもなく盛られたでかい羊肉。ホロホロなのに旨味がたっぷり残っている。

 

おーいみんな、おかわりもあるぞ

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食後は再びお茶とお菓子をごちそうになる。学生さんや事務員さんたちも集まってきた。みんなとっても人懐こい。

「日本のどこからやってきたの」

「いつまでこの街にいるんだ」

「泊まっているホテルはどこ」

「結婚は?」

「歳はいくつ?」

「なに?20歳くらいだと思っていたぜ、わはは」

 

 

 

 

 

ごちそうさまでした。

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最後にもう一つ余談ながら、旅先において、こういう思いがけない出会いに勝る楽しみはないと思う。

おじさんと学生さんたち、本当にありがとう。

 

 

冬の河原で芋煮をする話

冬に大阪の河原で、芋煮をやったらとても楽しかったのでレポートしたい。

 

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芋煮といえば、里芋を中心に、肉や野菜などの具材を煮込んだ鍋料理。東北地方の一部ではソウルフードともいえる存在で、秋になると仲間内で河原に集まって芋煮会をやるのが風物詩だそうだ。

 

ところで俺はもともと屋外でビールを飲んだり食事をする行為(ピクニックと総称)が大好きなんだけど、例年気温が10度を割り込んでくるあたりからつらくなってくる。今年も11月中頃に今シーズンのピクニック納めとして、最寄りの公園でソロピクニックを決めたところだった。

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ソロピクニックの例。これは日差しの眩しい春シーズンの様子

 

外でメシを食いたいが寒さには勝てぬ。ああ来年の春が待ち遠しい。そう悶々としていたところに思いついたのが、芋煮だ。芋煮の本場である東北が秋にやるのなら、それより温暖な大阪は冬の初めに芋煮をしても問題あるまい。むしろ適度な寒さのなかでアツアツをいただくのが芋煮の醍醐味であるとすれば、大阪における芋煮最適時期は今を置いてほかにはなかろう。

 

このような思いつきに友人らを巻き込み、俺たちは師走の河川敷に降り立った。

 

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空は青い


 

あー、うん寒い寒い。この日の大阪は最低気温4度。少し調べたら東北では秋に芋煮をやるといっても、宮城では主に10月、山形にいたっては9月が主流らしい。ということは平均気温は10度くらいか…

 

これは早く芋を煮ないとまずい。外でメシを食うには手際が命だ。寒かったり暑かったり、腹が減っていたりすると、分別ある大人でも不安感から不満が溜まりやすい。今日の芋煮は俺の発案だ。不手際があれば仲間からヘイトを向けられる矛先は俺だ。

 

具材は自宅で下準備してきた。肉はラップに包む。野菜はカットしてジップロック。そして里芋は皮を剥いて下茹で。各種の調味料も適量をあらかじめ調合し、小さなペットボトルに詰めてきた。これらをすべて鍋に投入し、一煮立ちさせて、白ネギがくたっとすればすぐにでも食べられる。カンペキだ、カンペキな段取りだ。そのはずだった。

 

誤算は火力だった。火元は友人に持ってきてもらったガスコンロだったのだが、寒さに加えて鍋がデカイこともあり、なかなか湯が沸かない。そういえば本場では、即席のかまどをこしらえて、薪の大火力で煮るのが正統派らしい。結局すべての具材がアツアツに煮えるまでに45分くらいはかかったような気がする。当然、空腹状態でそんなに待ってはいられないので友人が隣に設置した焚き火台でししゃもを焼いて食った。炭火のいい香りがしてめちゃくちゃうまかったが、みんなの関心は急速に焚き火に移っていった。

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本気さを伺わせる焚き火台



 

 

そうはいいながらも、やっとできあがった芋煮はうまかった。調味料の塩味、肉の脂と白ネギの甘み(砂糖もどさどさ入ってるけど)のバランスがよく、何より寒さのなかでアツアツの汁物を食べるのがうれしい。友人からの評判もまずまずだ。

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七味を入れるとうまい



 

余談ながら、俺はこういうイベントで失敗をするのが極端に苦手だ。ミスったけど楽しかったから結果オーライ、と笑って済ませられない性分で、コケると3日は引きずる。だから事前に自宅で予行演習をしてきたのだが、実はそのときはどうも味が決まらないような気がしていた。芋煮には、どのレシピを見ても昆布やカツオなどのダシが入らない。味噌or醤油、酒、砂糖、以上!という硬派な味付けなのだ。なんとなく物足りないのはダシ不在によるものだろうと思っていた。しかし本番ではこの物足りなさを感じなかった。調味料の配分はたいして変えていない。違ったのは肉の投入量だった。そうかそうか、芋煮のダシは贅沢にも肉からとるのか。ということで俺のような芋煮初心者の方は、失敗が恐ければこれでもかと肉を入れるといいと思う。

 

その後、芋煮には出来合いの餃子を追加、最後はうどんも入れてきっちり完食した。そしてその間にも焚き火の上では、しいたけの焼き物、焼きネギ、鶏の味噌炒め、鮭ハラスのネギ炒め、おしゃれなチョコバナナなどが友人の手によって仕上がり、そのすべてがはちゃめちゃにうまく、大満足で芋煮会を終えた。いや認めねばならない。いちいちハイクオリティなBBQのかたわらで、芋煮はやたらボリュームのある副菜の一つでしかなかった。イモニストとして今後の精進が求められる。

 

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映えるBBQたち


 

 

最後に。

簡単でおいしい芋煮だが、ひとつ注意を付け加えたい。それは、芋煮の宗教性について。ヤマガタ派とミヤギ派が二大派閥で、その正統性を争っている最中らしい。牛を神聖な捧げものとして醤油で煮るヤマガタ派に対して、豚を味噌で煮て邪気を払うミヤギ派。ドグマの違いからお互いに「そんなもの豚汁だろうが」「農業の貴重な動力源を食うな」と罵り合う芋煮戦争の様相だ。となれば当然、ネットの海には芋煮警察が暗躍し、法的手続きを無視した芋煮裁判も非公式に執り行われているのだろう。そこで要らぬトラブルに巻き込まれないように、この記事では一貫して中立性を保った記述をこころがけた。

そのつもりだったが、冒頭の写真があきらかに豚肉で味噌だった。だって豚肉は安いから。結局、資本主義とマッチした宗派が強いのだ。

 

ダラダラ坂、カレーメシ、赤飯おにぎり

    週末に和歌山と大阪の間にまたがる低山へ、ハイキングに行ってきた。年末に屋久島にトレッキングに行くので、新しく買った登山用品のテストと体力作りを兼ねて、登り2時間、下り1時間半くらいのお手軽なコースを歩いた。

    登りで2時間ならノンストップで楽勝、コースタイムの7割で登れると甘く見ていたけど、最初の45分はかなり急な坂道がダラダラと続き、普通に息が上がってしまい小休止をとってばかりだった。「ダラダラ坂は、真っ直ぐではなくジグザグに歩いて進むとラク」という、友人がマンガで仕入れた登山ハックを一緒に試したりして、ゲラゲラ笑いながら歩いていたら、60歳近そうな小柄なおじさんにすごくゆっくりと抜かれた。

 坂がキツかったのは最初だけで、尾根に出るとあとはなだらかな散歩道だった。関西地方はこの日を境にぐんと気温が下がった。空気はぴりっと冷たく、踏みしめる道は新しい落ち葉でさくさくしていて、とても気持ちが良い。きっちりと管理された杉林は日光が綺麗に差し込んで、影のコントラストが美しかった。それから途中で和歌山から大阪に入ったことが看板の表示でわかり、小さな達成感があったので友人と軽くハイタッチしておいた。

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 頂上にはコースタイムちょうどの2時間で到達。枯れたススキがみっしりと生えて美しい、ゴールデンレトリバーの背中のような丘だった。大阪サイドの街並みを見下ろすと、宗教団体のロウソクみたいな塔がくっきり見えた。

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    あとから頂上にやってきた声のデカイおばちゃんによれば、この日、同じ山系の山が冠雪していたらしい。うんうん、道理で寒いわけだね。バーナーで湯を沸かし、コーヒーと紅茶を一杯ずつ飲んだ。声のデカイおばちゃんの仲間は、あとからあとから時間差で登頂してきて、合計8人もいた。当然のように全員声がでかく、めちゃくちゃ話し好きだったので、持参してきた昼飯の中でカレーメシが一番人気だったらしいことがわかった。

 下山はあっという間だったけど、コーヒーも紅茶も飲んだせいで、尿意との戦いだった。友人が絶景だというので何度か写真を撮るために立ち止まったが、歩くのをやめると膀胱が痛んだ。なんとか尊厳を保ったまま下界に戻り、トイレを済ませてバス停に。ターミナル駅でスーパ銭湯に寄って、汗を流した。ジャグジー風呂で向かい側に陣取っていたおじさんがちょっと挙動不審だなと思って、横目で伺っていたら、湯船の中で赤飯おにぎりを食べていた。おいおいウソだろーと思って見つめていたら目が合ってしまい、おじさんはちょっと恥ずかしそうだった。おいおい。



 たまにいく居酒屋に寄って、軽くビールを飲んだ。異様にでかいカキフライが5粒で680円だった。寒いのは嫌いだけど、こういうことがあるから冬はあなどれない。

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