異国のおじさんがデカイ鍋で料理する一部始終

  中央アジア地域には、プロフと呼ばれるコメ料理がある。この話は俺が中央アジアを旅行中に、地元のおじさんが大鍋を振るって百人前くらいのプロフを作っているのを、ただぼんやりと眺めていただけの記録である。

 

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まずは角切りにした羊の脂身を鍋に入れる。じっくりと熱して脂を煎り出す。

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にんじんを刻む。シェフはこのおじさん。気取らない服装に民族衣装の帽子がクール。

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鍋がでかい。とにかく鍋がでかいぞ。直径1m近くある。そしていきなりの開放感。日陰にいるのに、少し横を向くと真夏の強烈な日差しがちらちら目に刺さる。実はこのキッチン、屋外にあるのでした。

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次に、羊肉を塊から切り出していく。

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あ、キッチンの下に子猫。

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こっちおいでー

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おじさんが羊肉を小さく切り分けてくれた。やさしいぜ。

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さて、鍋のなかは今こんな感じ。たまねぎかな?いい色に揚がっている。羊のべったりした脂のにおいと、野菜が焦げる香ばしいにおいが混じり合う。

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余談を一つ。プロフとは簡単にいえば、このたっぷりの油でコメを炊き上げる、炊き込みご飯だ。西はトルコから東はウイグルにいたるまで、イスラム文化圏で広く愛されている料理。地域によってポロ・オシュ・プラオなどさまざまな名前で呼ばれているが、実は日本でもピラフという名前で、しっかりと市民権を得ている。

 

 

さて、ここで肉だぜ。

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ちょっと足りないかな。追い肉だ。

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ここは斧を使おう、なぜなら骨が硬いからね。というくらい自然な感じに斧が出てくる。

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はい、次。

コメです。どうです、この頼もしい量。「合」とか「升」には荷が重いでしょう。

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湯を注ぎ込む。豪快に。

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ざぶざぶざぶ。

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鍋ににんじんを投入。しょわしょわー、といい音。

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水を加えて、煮立てていく。スパイスもたっぷり入れて、うまいスープを作る。暑い国らしい、うまそうな香りが一気にほとばしる。

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おや?君はいきなりなんだ?
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明後日のお昼ごはんとして連れてこられたそうです。めぇー
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余談二つ目。羊はかつての遊牧民にとって大切な財産。もともとプロフはお祝いごとに供される特別な料理だったそうな。結婚式など人がたくさん集まるイベントがあると羊をつぶし、みんなに振舞っていたのだ。ちなみに後ほど、お祈りを捧げてから決められた手順で屠殺される様子も見せてくれた。疑う余地なし、本物のハラルフード。

 

はい、いい感じにコメがふやけました。

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コメ meets うまいスープ。
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どんどんいくぜ。

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塩。

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クミンたっぷり。これ絶対うまいやつだ。

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へらを使って、こんもりとした山にするぜ。

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足元に置いてあったタライをひょいと拾い上げ、フタにする。このラフな感じ。あとは炊き上がるのを待つだけだ。

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そろそろお昼が近い。お腹へりましたね。

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ごはんが炊けるのを待っていたら、若い人たちが次々にキッチンに入ってきた。ハタチ前後の、礼儀正しい若者たち。おじさんと親しげに挨拶を交わす。実はこの場所、町の食堂とかではなく、イスラムの神学校なのだ。校舎は歴史ある美しい建物。観光地のど真ん中にあるけど、今も多くの学生が学ぶ現役の学校ということで、一般には公開されていない。

「おじさん、この人どうしたの?キッチンにいていいの?」

「まあいいんだよ、なんか疲れてたみたいだからな。わはは」

(想像)

 

 

そうそう、この日の気温は40℃超えていた。朝から観光地を徒歩で回ったら、ちょっと体にこたえたのだ。石壁伝いで細い路地にふらふら迷い込んだら、不思議な扉があって、たまたまキッチンで支度中のおじさんと目が合い、なかに招き入れられたのだ。

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イスに座るよう促され、おじさんが料理を始めるのをぼんやり見ていた。お茶や果物など、勧められるがままにいただいた。そのまま厚意に甘えて数時間。キッチンに居座り続けて、ついに学生たちの給食をつくる一部始終を見届けてしまった。

 

途中、通りがかった学生さんの一人が英語で教えてくれた。

「このおじさんはプロフの名人なんだよ。いつもは違う人が給食を作っているけど、プロフのときだけはこのおじさんだよ」

学生さんも嬉しそう。小学校の給食の、カレーの日のようだね。

 

 

よーし、いい具合に炊けたぞ。

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みんな運んでいってくれー
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はい、そこの君も食べていきなよね。

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うまい。数ある油&炭水化物のコラボレーションのなかでも、ベストマッチとも思える。スパイスたっぷりに見えて、味に尖ったところはなく、にんじんの甘みとあいまってとてもマイルドな味付けだ。そして惜しげもなく盛られたでかい羊肉。ホロホロなのに旨味がたっぷり残っている。

 

おーいみんな、おかわりもあるぞ

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食後は再びお茶とお菓子をごちそうになる。学生さんや事務員さんたちも集まってきた。みんなとっても人懐こい。

「日本のどこからやってきたの」

「いつまでこの街にいるんだ」

「泊まっているホテルはどこ」

「結婚は?」

「歳はいくつ?」

「なに?20歳くらいだと思っていたぜ、わはは」

 

 

 

 

 

ごちそうさまでした。

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最後にもう一つ余談ながら、旅先において、こういう思いがけない出会いに勝る楽しみはないと思う。

おじさんと学生さんたち、本当にありがとう。