廃業したまんまの銭湯でビール
暖冬とはいえ寒気厳しき折柄の一月。殊にここ数日の冷え込みは全国的に厳しい。こんなときは大きな風呂につかってゆっくり温まるのがよい。電車で少しいったところに面白い銭湯があるということで足を伸ばしてみた。
ぐねぐねした住宅街のど真ん中。
なんかずいぶん暗いけど。
おお、ここであってるみたい。
すみませーん、番台さん?
あれ、誰もいないんだなあ。
ずいぶん年季の入った雰囲気。本当にやってるのかな。
お、人が出てきた。え?とりあえず一杯どうかって?
で、これですか。おれ、コーヒー牛乳よりはフルーツ牛乳派なんだけどな。そもそも牛乳はやっぱり風呂上がりがいいんだけど。
ごくごく。
ホップがキリキリ効いてしっかり苦味がありながら、モルトの優しい甘みと調和してうまい。いやこれ、牛乳瓶に入ってるけどビールですよね。なるほど、銭湯でクラフトビールを提供してるわけですか。
「いえ、ウチは廃業した銭湯を改装して始めたビールの醸造所です。風呂はやってません」と若い店主。
はあ、そうでしたか。それにしても雰囲気ありますね。
やっぱり、廃れつつある銭湯文化を保存したい的な発想なのかな。
「いえ、この試飲スペースは改装が面倒で、単純に銭湯の内装をそのまま放置してるだけです」と店主。
なんとも男前な回答。まあなんにせよ、せっかくの不思議空間で、せっかくのうまいビール。小難しいことは考えずに楽しみましょう。
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うーん。しかし、酔いが回ってくると。
やっぱり不思議な気分だ。
どうみても銭湯そのものだけど。
たしかに湯は張っていない。
「ご注意」も、
水風呂も、
洗い場も、全部そのまま。
しかも、変にキレイに整えられていない感じが違和感を増幅させる。最近、銭湯をリノベーションして、カフェや居酒屋にする店舗はちょっとした流行りだけど、ここは一切の飾り気がない。言うなれば廃業した銭湯そのまんまの姿。そこに一人ぽつんと座って牛乳瓶でビールを飲む。シュルレアリスムが過ぎて、なにかに化かされているか、夢でも見てるみたいだ。
本当にこんなとこでビール作ってるのかな。
あ、醸造用のタンク。本当にやってんだ。ちなみにあっちが男湯。ということは今いるのは女湯。どちらも「元」だけど。
いやー、飲んだ飲んだ。思ってたのとは違うけど、結果として体も温まった気がする。ごちそうさまでした。
でも店を一歩出ると、実はやっぱり化かされてて、
ビールだと思っていた液体は消毒くさいお湯だった。なんてこともなかった。
・・・
お邪魔したのはこちら。
試飲スペースの営業は土日の12:00〜16:30。ちなみにフードの提供がない代わりに、なんでも持ち込みOKの良心的すぎるルールです。