異国の友人たちへ、また会う日まで

2024年ゴールデンウィーク。5年ぶりにウズベキスタン旅行に行ってきたので、旅の模様をデイリーポータルZに綴りました。ウズベク旅行記はこれが3本目。

 

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(↑New!)

 

おかげさまでどの記事も多くの方にお読みいただき、ときには身に余るような素敵なコメントもいただきました。それを励みにさあまた頑張って続きを書こうぞとも思うわけですが、たいへん残念ながら、家庭の都合で次の渡航機会の目処が、今後10年は立ちそうにない。ひとまず三部作で完結ということになります。出会い、再会、そして恩返し。ほら思いがけず、きれいにまとまったことですし。

 

 

 

最後に未練がましく、本編には蛇足で盛り込めなかったエピソードを一つだけ。ウズベキスタンといえば、このおじさんのことを忘れてはいけない。

神学校との縁をつくってくれた、料理人のおじさん

おじさんはもう数年前に神学校のコックは辞しており、いまは近くにある古いモスクで、相変わらず料理の仕事をやっている。

羊をめぐる冒険」のあいまにモスクを訪ねた

5年ぶりにあったおじさんは、煩わしそうに左足を引きずってはいたが、それ以外はいたって元気そうな様子だ。いかつい真顔と、そのせいでいっそう魅力的に見える笑顔は、初めて会ったときから変わらない。このときもおじさんは、おうおうよく来たなと全身で喜びを表現していた。気持ちが昂ったのか、おれを置いてけぼりで、なんかいま日本人が俺んとこ来てるわ!と親戚に電話で知らせ回っていた。

 

今こんなんしかないけどな、まあ食え食えと出してくれる肉の煮込みがじんわりうまい。

 

おじさんは英語が話せない。これまでは英語が話せる生徒たちを介して意思疎通してきたので、2人きりのときはお互いが言いたいことの10%も伝えられない。スマートフォンの写真を見せながら、簡単な単語のやりとりで補完するのが一番効率のいい通信手段だ。

「え、おじさんこんな小さい子どもいたんか。これ孫じゃなくて?で、明後日から家族でメッカに巡礼にいく?マジかすげえ」

「ほおー、お前も結婚したのか。なんで奥さんつれてこないんだ。妊娠中?そりゃあ楽しみだなあ」

 

 

問題は、ひとしきり手持ちの写真を見せあって近況を報告したら、すぐにネタが切れるということだ。

 

お互いスマホを片手に会話の糸口が見出せず、すこし気まずい沈黙。かれはいきなり立ち上がり、戸棚から小さなチョコレート菓子をとりだして、微笑みをうかべて「サハール」と言いながら渡してきた。一瞬、あたまの中でなにかがパチッとはじける感触があり、なぜかわからないまま大爆笑してしまった。おじさんもげらげら笑い、おれの肩をたたく。笑いすぎてじわっと涙をにじませながら、なんでこんなに笑えるのか、ぼんやり思い出してきた。

 

はじめてあった8年前も、おじさんと意思疎通がままならなかったが、数少ないおれの手持ちのロシア語の単語に「サハール(砂糖)」があった(カフェでもらえる小袋の砂糖にサハールと書いてあるので覚えた)。

たぶんあのとき、おじさんがくれた小さな飴玉かなんかを受け取りながら精一杯のコミュニケーションとしておれが「サハール」って言ったんじゃなかったかな。飴玉をみて砂糖という。言いたいことはわかるけど、なんか絶妙に違う。舌足らずな子どもの言葉みたいにおかしくて、あのときおじさんはおれのサハール発言にがははと笑っていたような気がする。

 

そんな会話は今の今まですっかり忘れていたけど、おじさんはそのときのことを覚えていたんじゃないかと思う。たぶん。

ずっと心にとどめておきたい内輪ネタ。次回はこちらから仕掛けてやりたい