ベ活、やってますか

いま停滞しているのは、何も経済活動に限った話ではない。婚活も就活も妊活も、活動と名の付くものはほぼ全て停滞していると聞く。このような時代を生きる我々が、いま勤しむべきことは何か。それはベランダ活動。つまり、べ活(べかつ)である。

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・・・

 

 

 

ベランダ開発計画、苦闘の歴史

いまのマンションに越してきて6年が経つ。立地至便。築年数も悪くない。実際のところ、かなり気に入っているのだが、さらなるチャームポイントが四畳半近くあるベランダ。天井も高く、三次元的にかなりの大空間だ。

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引っ越しのときの決め手にもなった

さぞ立派で高級なお部屋に住んでいるのね、と思われるかもしれないが、安心してほしい。居室のサイズがベランダとほぼ同じというオチがつく。家賃はむしろ地域の相場以下だ。

 

しかし。正直に白状するのが悔しくてたまらないのだが、実はこの立派なベランダ。これまでほとんど利用することなく、持て余してきてしまったのだ。

 

もちろんベランダの開発計画そのものは、引っ越し当初から何度も持ち上がっていた。ここにアウトドア用のテーブルと椅子を置き、晩酌でもすれば素敵ではないか。あるいはもっと大胆にウッドデッキを敷き詰めるのもよかろう。季節の花が咲き乱れるベランダガーデンなんかも素敵だ。

 

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エクセルで見取り図までつくったウッドデッキ計画

 

ただおれは、こうした数多の素敵ベランダ計画を立案しておきながら、いつも実行に移すギリギリのところで自ら計画を白紙に戻してきたのだ。

 

数年前には、ベランダの地域住民に対し何度も説明会を繰り返し、合意をとりつけ、さあ予算執行というところまでいったこともある。

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顔役の室外機さんも最後は「それが未来のためなら…」と言ってくれたのに

しかしそんなとき。足を引っ張るのは、心の内に住む、開発反対派のおれだ。ヤツはささやく。「だって、ベランダを清潔に維持するのってものすごく手間がかかるんですよね。しかもうちの目の前はかなり大きな幹線道路。毎日、ひどい汚れ方じゃないか。そういえば不動産屋さんも契約時に、あまり洗濯物は干さないほうがいいと助言してくれたでしょ」。そうだった。それもあって家賃が安いんだった。

 

開発によって一時的にベランダが潤ったとしても、それを維持し続けるという重荷を背負うのはいつも将来世代なのだ。わかる。痛いほどわかる。正論だ。こうして、冷静かつ賢明かつズボラなおれは、幾度となく持ち上がってきたベランダ計画をいつも土壇場で覆してきてしまっていたのだ。

 

それでもさまざまな案が検討された数年前まではまだよかった。ここ最近は新しい計画が持ち上がる機運すらない。それどころか。ひょっとするとおれは、この1年ほどベランダに降り立ってすらいないのではないか。何度も計画を反故にしてきた後ろめたさが、おれの目をベランダから背けさせているのだ。このままいけば、いつかカーテンを開けることさえためらわれるようになってしまうかもしれない。

 

明るい未来という期待感を一身に背負った広大なベランダは、今はただ黒いホコリとチリをたっぷりと積らせ、打ち棄てられた廃墟然としてたたずんでいる。しかも都合の悪いことにおれの居住空間と、目と鼻の先で。

 

 

春の陽気を奪われた我々は

ところがここにきて。急激に風向きが変わってきた。そう、例の外出自粛である。

 

おれはもともと、外でご飯を食べたりお酒を飲んだりするピクニック的行為が大好き。特に今は、春のピクニックシーズンのど真ん中(ちなみに春・秋の2シーズン制である)。冬のあいだ、どれほどこの春の陽気を待ちわびてきたことか。それなのに、その大事な春シーズンがまるごとフイにされようとしている。 プロ野球やJリーグと同様とは言わない。ただピクニックがワンシーズンなくなるというのは、精神衛生上の大問題なのだ。

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これは去年の春シーズンの様子

そこでにわかに脚光を集めはじめたのが、例のベランダ。ここなら誰にも文句を言われることなく、思う存分ピクニックができる。起き抜けにテーブルを引っ張り出して、コーヒーと食パンを出せばもうそれはピクニック。風呂上り、濡れた髪のまま缶ビールを持って春の風にあたれば、これも立派なピクニック。そうだ、こんな身近なところに素敵なピクニックスペースが広がっていたのに、なぜ気付かなかったのか。

 

ベランダでできることは、何もピクニックだけではない。ここで日向ぼっこをしながら読書をしてもいいし、季節の花々を育ててもいい。スペースがあれば軽い運動をしてもいいだろう。ベランダは、庭を持たない都市住民に与えられた、唯一の合法的かつプライベートな外空間。確実に三密を避けながら、外の空気を楽しむ。これこそ現代日本人が今、こぞって精を出すべき活動なのではないか。

 

何度も浮かんでは立ち消えしてきたベランダ開発計画。今度こそついに始動するのではと、地域住民も色めきだっている。おれはやるぞ。やってみせるぞ、今年はベランダを有効に活用してみせる。さあ、べ活の始まりだ。

 

 

 

 次回、「ベ活、やっていますか ~怒涛の大掃除篇~」をお送りします。お楽しみに(無事に掃除が終わればです)。

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フライト中のつもりでテレワークする

最近、在宅勤務やっていますか。おれはやっている。このご時世、自宅で安全に仕事をさせてもらえて、まことにありがたいことである。

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最近、飛行機乗っていますか。おれは乗っていない。みんな乗っていないだろうな。こういうご時世だから。

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ということで。このご時世に、そんな感じの記事をデイリーポータルZで書いたので、よろしければご覧ください。 

dailyportalz.jp

まさかこんな日がやって来るとは

いつもブログをご覧いただきありがとうございます。この記事は、いわゆるお知らせというやつです。

 

デイリーポータルZで、ゲストライターとして記事を書く機会をいただいた。

dailyportalz.jp

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どうかみなさま。どうかみなさま、ご一読いただければ嬉しいです。

 

 

デイリーポータルZ、通称DPZ。ご存知のかたも多いと思うが、DPZは日本の老舗テキストサイトである。設立はいま調べたら、2002年。そうか、ということは多少タイムラグはあるにせよおれはこのサイトを中学生のころから見続けてきたことになる。毎日休まず数本の記事が更新されているが、おれが今まで読んできた記事の数はどれだけになるだろうか。

 

ライターたちの些細な関心ごとを起点として綴られる記事の数々は、決して誰かを不快にすることもない代わりに大して役立ちもしない。それでいてすべての記事が、確実に面白い。ゲラゲラと爆笑するのではなく、「よくもまあこんな記事が…」としみじみ面白い。この面白さは、記事の裏側にある、もはやムダとも思えるほど徹底したこだわりと圧倒的熱量の愛によるものだ。そんな良質の記事、いまどきなかなかネットで見られないぜ。しかもそれを書き続け、積み重ね、はや18年目。こうして唯一無二のポジションを確立したDPZは、広大なネットの海にじんわりと灯る綺羅星。老若男女に愛される日本インターネット界の最後の良心なのだ。

 

さらにDPZが素晴らしいのは、その記事作成ノウハウを惜しげもなく社会に還元していることだ。毎週金曜日に更新される「自由ポータルZ」という企画では、一般の読者から「DPZ的なノリの」記事を募集し、プロのネットメディア編集者がその記事に講評をつけてくれるのだ。これがめちゃくちゃためになる。


おれがこのブログをはじめたのは、人生で楽しかった瞬間をしっかり言葉で残しておこうというライフログ的な発想からだったが、畏多くもこの自由ポータルZに投稿してみたいという淡い想いも理由の一つだった。だって「面白い!」と評価されれば、憧れのDPZから講評つきで自分のブログへリンクが張られるんですよ。夢みたいな話じゃないですか。

 

さてここから唐突に、純度100%、混じりっけなしの自慢話になるので、せめて短く端的に記そう。恐る恐る初めて投稿した自由ポータルで、いきなり載った。もうこれで思い残すことはないなというくらい嬉しかったが、調子に乗ってもう一本投稿したらまた載った。有名漫画家の方にTwitterでシェアされたこともあり小さくバズった。もう天にも昇るような気持ち、これ以上はバチがあたるなと思った。思いながらも、評価という甘い果実に魅せられて、その後も投稿していたら奇跡的に載り続けた。

 

そしてあるとき。

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DPZの編集部の方からオフィスにお招きいただき、ゲストライターとして何回か記事を書いてもいいよー、ということになった。

 

本当に本当に、ただの自慢になってしまうが、率直に言って死ぬほど嬉しかったね。まさかおれの人生にこんな日がやって来るとは。だって子どものときから読んできた憧れのメディアに、一介のはてなブロガーのおれが記事を書かせてもらえるなんて。

 

そして書き上げたのが冒頭の記事。しつこくてすみません。どうか、ご一読いただけたら嬉しいです。担当編集の方から励まされ、おだてられ、宥めすかされながら、これまでで一番時間をかけて書いた全力投球の記事です(2本目のリンクのこと)。

dailyportalz.jp

 

これまで同様、自分の大好きなものを世に広めていくために、はてなブログも更新していく所存です。引き続きゆるゆるとご覧いただけませば幸いです。

飲み会でビールばっかり飲む村の住人より一言

おれはビールが好きなので、居酒屋にいっても基本的にビールしか飲まない。席に着くなり「とりあえず生中」だし、2杯目3杯目と杯を重ねてもやはり生中である。

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ただ、ラストオーダーですと言われればそこはさすがに生中。「オイもう一軒だ!ジュリアンいくぞ!」と上司いきつけのスナックにつれていかれれば、まあ致し方なく中瓶である(ジュリアンにはビアサーバーがない)。

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そうすると、たいていの人はこう言う。「そんなにビールばっかりだとお腹いっぱいになるでしょ」。

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わからない。おれにはそれがわからない。お腹いっぱい、なりますか。これは10年ほど前に酒を飲み始めて以来、一貫して感じている疑問だ。おれは普段、コンディションがよければ生中で7〜8杯くらい飲んでいる。3杯目くらいから酔いは回る。5杯も飲めば自分でもかなり酔ってるなという感じがしてくる。そろそろビールがきついな、おいしくなくなってきたなと思うころだ。ただそれはアルコール摂取量の問題である。お腹いっぱいだからやめておこう、とはならない。もしかしたらおれは「飲み会でビールばっかり飲む村」の末裔で、特殊な遺伝子を受け継いでいるのかもしれない。

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「ビールでお腹いっぱいになるよ村」の住人によれば、犯人は炭酸であるという。ビールの泡あわがお腹に溜まるのだという。そんな馬鹿な。だって君たち、そんなこと言っておきながら、平気な顔して2杯目にハイボールを頼んだりするじゃないか。

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そんなわけでおれはずっと、ビールでお腹いっぱい村というのは、ウイスキーや焼酎の業界団体から補助金を受けているか、あるいは本当はビールを飲み続けたいけど痛風を患っているんだと思っていた。

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ところが最近だ。何かの飲み会でこの話を同僚にしたところ。おれは唐突に理解してしまった。同僚いわく。「ああ、きみ会食でもほとんど何も食べないもんね」。

 

え、なんですって。

 

そういうタイプの人間がいることはもちろん知っている。「酒とメシは別々だよ村」の住人だ。ただそれは、遠い遠い外国の話だと思っていた。おれが知っているあの村の住人というのは、主に角打ちや安酒場を住処としていて、酒を飲むことにストイック。つまみは乾き物かお新香。顔を真っ赤にしながらぐいぐいと飲み続け、最後に完全に据わった目つきで「うめ茶漬けぇ、ひとつっ!!」と大声で叫ぶのだ。

 

おれは違う。たしかに大食らいではないが、ビールを飲みながらちゃんと鳥の唐揚げやソーセージも食べるじゃないか。

 

別の同僚がいう。「でも炒飯やポテトみたいな炭水化物には絶対手を出さないですよね。ていうか今も、皿の上に最初にオーダーした餃子残ってますけど」。

 

う…。そうか。そうだったのか。おれは酒を飲むときはメシを食わないのか。だからビールを飲み続けても腹がいっぱいになるとは思わなかったのか。たしかに言われてみれば薄々、飲み会でみんなよく食うなと思ってはいた。

思い当たる節もいくつかある。結婚式のコース料理のように自分のペースで食事ができないときは、高確率でメイン料理を残していた。なんか結婚式って緊張してご飯があまり食べられないよなんて笑いながら、新婦が感謝のお手紙を読む段になってもしつこく瓶ビールを給仕係にオーダーしていたのだ。

 

結局のところ、そういうことなのだ。おれは「飲み会でビールばっかり飲む村」だけでなく「酒とメシは別々だよ村」の血も引いていたのだ。物語の終盤で、自分の意外な出自が明らかになった漫画の主人公のような気持ちだ。

 

なんて大袈裟に言ってはみたものの。酒を飲むというのは、基本的にパーソナルな行為だ。人さまに迷惑をかけない範囲で、何をどう飲もうが人の勝手である。もっと若いときならいざしらず、30にもなると酒の飲み方についていちいち人から指摘されることもないし、自分の飲酒習慣について深く考える機会などない。そんな中で、長年にわたり無自覚だった習慣が明らかになって大変驚いたと。まあそれだけのお話。一つ記事を書いたらいい時間になったので、そろそろ居酒屋も開いたでしょう。とりあえず生中で。

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廃業したまんまの銭湯でビール

暖冬とはいえ寒気厳しき折柄の一月。殊にここ数日の冷え込みは全国的に厳しい。こんなときは大きな風呂につかってゆっくり温まるのがよい。電車で少しいったところに面白い銭湯があるということで足を伸ばしてみた。

 f:id:nadegata226:20200118145700j:imageぐねぐねした住宅街のど真ん中。

f:id:nadegata226:20200118145610j:imageなんかずいぶん暗いけど。

f:id:nadegata226:20200118145729j:imageおお、ここであってるみたい。

f:id:nadegata226:20200118180754j:imageすみませーん、番台さん?

f:id:nadegata226:20200118181015j:imageあれ、誰もいないんだなあ。

f:id:nadegata226:20200119150042j:imageずいぶん年季の入った雰囲気。本当にやってるのかな。

f:id:nadegata226:20200118180834j:imageお、人が出てきた。え?とりあえず一杯どうかって?

f:id:nadegata226:20200119150621j:imageで、これですか。おれ、コーヒー牛乳よりはフルーツ牛乳派なんだけどな。そもそも牛乳はやっぱり風呂上がりがいいんだけど。

 

ごくごく。

 

ホップがキリキリ効いてしっかり苦味がありながら、モルトの優しい甘みと調和してうまい。いやこれ、牛乳瓶に入ってるけどビールですよね。なるほど、銭湯でクラフトビールを提供してるわけですか。

 

「いえ、ウチは廃業した銭湯を改装して始めたビールの醸造所です。風呂はやってません」と若い店主。

 

はあ、そうでしたか。それにしても雰囲気ありますね。

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やっぱり、廃れつつある銭湯文化を保存したい的な発想なのかな。

 

「いえ、この試飲スペースは改装が面倒で、単純に銭湯の内装をそのまま放置してるだけです」と店主。

 

なんとも男前な回答。まあなんにせよ、せっかくの不思議空間で、せっかくのうまいビール。小難しいことは考えずに楽しみましょう。

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f:id:nadegata226:20200119155844j:imageうーん。しかし、酔いが回ってくると。

f:id:nadegata226:20200119153349j:imageやっぱり不思議な気分だ。

f:id:nadegata226:20200119162420j:imageどうみても銭湯そのものだけど。

f:id:nadegata226:20200119153345j:imageたしかに湯は張っていない。

f:id:nadegata226:20200119153526j:image「ご注意」も、

f:id:nadegata226:20200119153815j:image水風呂も、
f:id:nadegata226:20200119153805j:image洗い場も、全部そのまま。

 

しかも、変にキレイに整えられていない感じが違和感を増幅させる。最近、銭湯をリノベーションして、カフェや居酒屋にする店舗はちょっとした流行りだけど、ここは一切の飾り気がない。言うなれば廃業した銭湯そのまんまの姿。そこに一人ぽつんと座って牛乳瓶でビールを飲む。シュルレアリスムが過ぎて、なにかに化かされているか、夢でも見てるみたいだ。

 

本当にこんなとこでビール作ってるのかな。

f:id:nadegata226:20200119162558j:imageあ、醸造用のタンク。本当にやってんだ。ちなみにあっちが男湯。ということは今いるのは女湯。どちらも「元」だけど。

 

 

 

f:id:nadegata226:20200119164203j:imageいやー、飲んだ飲んだ。思ってたのとは違うけど、結果として体も温まった気がする。ごちそうさまでした。

 

でも店を一歩出ると、実はやっぱり化かされてて、
f:id:nadegata226:20200119164158j:imageビールだと思っていた液体は消毒くさいお湯だった。なんてこともなかった。

 

 

 

 

・・・

お邪魔したのはこちら。

  

ajgtojud.wixsite.com

試飲スペースの営業は土日の12:00〜16:30。ちなみにフードの提供がない代わりに、なんでも持ち込みOKの良心的すぎるルールです。

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黄金は北方よりもたらされる

黄金は富。黄金は財。黄金とは、貴重なものの代名詞。大航海時代には胡椒一粒は黄金一粒などといったもの。ならば菓子で例えればどうか。フィナンシェだろうか。あれは金塊を模した形状だけか。では黄金糖か。あれはべっこうのような色味が似ているだけだ。それならば、やはりマルセイバターサンドだろうか。

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この黄金は、北方に浮かぶ島よりもたらされる。仕事がら常より諸国を旅し、また客人多く訪ねくる我が職場には、各地の産物が集まる。中でも格別の威容を誇り、格別の喜びをもって迎え入れられるのがこの黄金。小麦と乳のインゴット。

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かの島では、人よりも多くの牛が住むといい、その乳の美味なることは広く知れ渡る。幾許の乳を練り上げ、小麦菓子で挟んだこの黄金は、風味絶佳にして滋養豊潤。口中来福にして栄養満点。また過剰な熱量に溢れることでも名高い。一つ165kcal。

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美味であることもさることながら。この菓子は黄金であるからして、換金性がある。

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先日は職場に箱単位で大量の黄金が持ち込まれたことで、一つの経済圏が生まれた。みな、こぞって黄金を得るための取引を望んだ。平均的な相場としては、黄金ひとつで板チョコや缶コーヒーが購える。東京銘菓 ごまたまごなら、ふたつに相当する。

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鈍く光沢を湛えた赤い輝きは、賢人の目をも曇らせる。手に取ればずしりと確かな、そして甘美な重みが感じられ、いかなる堅物も弛緩させる。まさに現代の山吹色のお菓子。

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ただしいかに黄金といえど、価値は不変ではない。

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後生大事に出し惜しみすると、いつのまにか品質が劣化して市場価値が暴落することがある。購入後は冷暗所に保管し、お早めにお召し上がりください。

 

 

 

六花亭 マルセイラベルマスキングテープ
 

 

紅茶のしっぽ

今まで気にも留めなかったものが、ある日とつぜん気になりだすことがある。で、最近は紅茶のティーバッグの先にくっついてるしっぽのような、小さな紙切れが気になっている。

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コーヒーよりお茶派のわたくし。今まで飲んできたお茶類は数知れず、紅茶を飲むたびにしっぽちゃんの存在は認識していたが、カップの持ち手にくるくるっと巻きつけたあとは完全に意識の外にあった。

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しかしよく見るとひとつひとつデザインやカタチが凝っている。しかも切手サイズでついつい愛でたくなるような可憐さだ。

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ティーバッグそのものは個性がない分、タグにはほんの少しだけ遊び心を表現することができる。その控えめなかわいさに一度気づいてしまうと、もう無視なんてできない。むくむくと収集欲がもたげてくる。試しに二週間弱、このしっぽちゃんを意識的に集めてみた。会社では毎日お茶。喫茶店に入っても積極的に紅茶を頼み、ひとまずこれだけ集まった。

f:id:nadegata226:20191126222001j:image全員集合。

 

f:id:nadegata226:20191125205836j:image日東紅茶は王道のポット柄ですね。

f:id:nadegata226:20191125205840j:imageルピシアは小さめの正方形でクラシカル。

f:id:nadegata226:20191125201010j:imageなんの模様かと思ったら身もふたもない「茶」の羅列。

 

うんうん、みんな違ってみんないい。俺はこういうちまちました紙類にめっぽう弱いのだ。ところでこのしっぽちゃんは、ちまたではティータグ(tea tag)と呼ばれているらしい。高度に情報化された社会において、正式名称がわかることは重要な意味を持つ。さらなる情報を求めて検索ができるからだ。イエス、ググラビリティ。

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ああ、やっぱり。この世はかわいいしっぽで溢れている!しかも趣味としてティータグ収集する界隈がそれなりに繁栄している模様。これは素敵な世界を見つけてしまったぞ。

 

さてこうなると、俺だって素敵なコレクションを作りたいし、誰も持ってないレアなしっぽちゃんを自慢したい。しかしお茶ってやつは、一箱買うとなかなか消費するのに時間がかかる。すでに職場にも自宅にも、中途半端に余った茶葉で溢れかえっており、そう気軽に新しいのを買える状況ではない。ああ、これまで無為にしっぽちゃんを捨ててきたことが非常に悔やまれる…。

 

ではどうするか。こういうときは自分で勝手につくってしまえばいいのです。

 

f:id:nadegata226:20191126213036j:imageこちらは頂き物のスリランカの紅茶。


f:id:nadegata226:20191126213047j:imageもともとこんな正統派しっぽがついてますが。

 

f:id:nadegata226:20191126213043j:image外箱から適当な箇所を探して、オリジナルしっぽに。


f:id:nadegata226:20191126213039j:imageで、切り抜いたのがこちらのおじさん。絶妙なサイズ感でしょ。糊でヒモをつけて完成。


f:id:nadegata226:20191126213032j:imageちなみにこちらのおじさん、一代で世界的紅茶ブランドのDilmahを築いた創業者であらせられるぞ。いわく人生の60年を紅茶に捧げてきたスゴイ人で、ある意味ブランド名なんかよりもよほどしっぽにふさわしい図柄だろう。おじさんの努力、ぼくは見てますよ。誠に勝手ながら、すこしいいことをした気分である。

 

次はウズベキスタンで買ってきたこの緑茶。

f:id:nadegata226:20191127213859j:imageカラバリの意味は分からないけど、ゆるいゾウさんがかわいくて全色買ってしまったの。

 

f:id:nadegata226:20191127213929j:imageちなみに箱の中身はティーバッグではなく茶葉タイプなので、オフィシャルなしっぽちゃんは存在しない。

 

f:id:nadegata226:20191127214505j:image外箱を展開して。さあどこを切り出してやろうか。

 

f:id:nadegata226:20191127214548j:imageやっぱりセンターの彼の存在感が際立ってるよね。

 

f:id:nadegata226:20191127214616j:imageはい最高。かなりレアものの雰囲気を漂わせている。実際、デザイン性を売りにしたティーバッグでは、ネコやウサギをかたどったタグも存在する。しっぽは必ずしも四角である必要はないのだ。もしこの会社がティーバッグの販売を開始するときは、ぜひこのデザインを検討してもらいたい。

 

 

さらにもう一つ、中東・オマーンで買った緑茶。

f:id:nadegata226:20191127223542j:imageエキゾチックで少し怪しげですが、ちゃんと緑茶です。

 

f:id:nadegata226:20191127223626j:imageここはやっぱり特徴的なアラビア文字をいかしたいところだよね。

 

f:id:nadegata226:20191127223738j:imageということで、こんなしっぽに。

 

f:id:nadegata226:20191127223907j:image実は外箱の裏地がこんな感じの模様なのでした。ブランドロゴが小紋柄のように並ぶ感じが、いかにもしっぽにありそうなデザインだったので。

 

最後に京都の老舗茶屋のほうじ茶。こんなかっこいい紙袋、中身が空いたからといって捨てるわけにはいかないでしょ。

f:id:nadegata226:20191128172016j:imageどこを切り抜くかって?

 

f:id:nadegata226:20191128172134j:imageまー、ここしかないよね。

 

f:id:nadegata226:20191128172158j:imageでかいけど。まー、でかいけど。でも許す。最高にかわいいから。しかもさっきまでほうじ茶が入っていただけあって、このしっぽちゃん、香ばしくていい匂いがするんです。

 

 

 

 

・・・

f:id:nadegata226:20191128172337j:imageかくして、寂しかったぼくのコレクションに、世界で一つだけの個性的なしっぽちゃんたちが加わったのでした。めでたしめでたし。