ちょっとビール買ってくるわ、アメリカで

アメリカのクラフトビールが大好きである。したがって渡米したときはいつも、しこたまビールを飲んでしまう。たとえ時差がつらくても。帰りのフライトが早朝便でも。自分を追い込むように、必要以上に飲んでしまうのだ。しかし当然ながら、滞在中に飲めるビールの量には限りがある。そこで先日アメリカを訪れた際、俺はこの愛しいビールたちを日本に連れ帰ることにした。

え、お酒って海外から持ち帰れるの?と疑問を持つ人もあろう。なに、簡単なことである。スーツケースを開ける。ビールを入れる。スーツケースを閉める。ほらね。キリンを冷蔵庫に入れるようにシンプルだろう。

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すごいぜアメリカのクラフトビール

ビールをスーツケースに詰めるためには、ビールを買わなければ話にならない。まずはスーパーマーケットへ。どんなスーパーでもよいのだが、大規模な店舗であればなおよし。下の写真のように、きっと素晴らしい景色が拝めることだろう。

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壁一面のビールという絶景。この30mほどのショーケースのうち、ざっと8割がいわゆるクラフトビールである。圧倒的、というかもはや暴力的な品揃えだ。

 

アメリカのビールといえば、バドワイザーを抜きには語れない。単純に世界一の生産量を誇るビールであり、マクドナルドやコカコーラと並んでアメリカを象徴するメガブランドの一つである。しかし同時に、アメリカは個性豊かなクラフトビールの一大市場でもある。なんと全米ビール市場のうち、クラフトビールは金額ベースで24%を占め、その額は276億ドル(約3兆円!)にのぼる。単純比較はできないが、日本のビール大手5社の売上合計、3.3兆円に匹敵すると考えるといかに規模が大きいかわかる。

クラフトビールの存在感は数字の上だけでの話ではない。バーやレストランはほぼ間違いなく地元のビールを揃えているし、スーパーで地元のビールを買うとレジで「いいの選んだね、これは最高だよ!」とかやたらと嬉しそうに話しかけてくる。反対に近隣の州のビールを買うと「あら、こんなビール初めて見たわね」みたいな嫌味を言われたりもする(もちろん冗談ぽく)。

日本でも何度かのブームを経て、ずいぶん身近な存在となったクラフトビール。だが地域への深い愛情をもつアメリカの場合はもはやブームなどではなく、生活にしっかり根付いた文化と呼べる域まで達しているのだ。

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スーパーの陳列棚もやたらと"LOCAL"推し。

 

 

ビールたちの過剰な主張

さて種類が多いのは喜ばしいのだが、これだけの品揃えから選ぶとなると大仕事である。とりあえず一本ずつ買って、できるだけたくさんの種類を揃えたい気もするが、ビールの小売は6缶セットが基本なのだ(バラ売りも一応ある)。

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こんな風にキャップ付きか、箱入りになっている。スーツケースの空きスペースを考えると、これは厳選しなければならないぞ。

 

しかし改めてショーケースを眺めると、どれもデザインが凝っている。原色と派手なイラストが乱れ咲き、「俺だ!俺を買え!」という強い主張を感じる。

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アメコミ風にパンク風。愛国心を煽るものも。なるほどこれだけ競争が激しいと、まずは缶のデザインで目立っていかないと勝ち残れないのかもしれない。俺もいくつかジャケ買いをしつつ、好きなスタイルや製法のユニークさなどを考慮して、以下の通りお買い上げとなった。

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スーツケースにときめきを詰めて

さあいよいよ、35リットルの小型スーツケースに詰めていく。旅先において、スーツケースとは小さな自分の家である。必要な衣類や下着、衛生用品、緊急用の薬、各種電子機器に電源ケーブルなど、少しでも自宅と同じように安全かつ快適に過ごすための道具を、最小限にまとめたのがスーツケースなのだ。ではこのスーツケースの空間を最大限生かすにはどうするか。ここはもちろん、米国人をも唸らせた、こんまりメソッドである。

今回、俺は人のカネで渡米している。平たく言えば出張というやつで、往路のスーツケースには先方への手土産や、相手方に渡す資料、サンプルなどのビジネスライクなグッズがぎっしり入っていた。これらはこんまり先生のいうところの、まったくときめかないものであるので、出張の道中でさよならしてきた。さらに旅人御用達のテクニック、「古い下着捨てて帰る作戦」で大量のときめかないものとお別れだ。よし、スペースできた!

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ではまず、緩衝材を敷き詰める。なぜこんなものがあるのかというと、普通に俺が日本から持ってきたからだ。

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続いてときめきを並べていく。一つ一つ、丁寧に。やはり片側では収まらなかったか…。今晩のうちに少し飲んでしまおう。今回は持参するのを忘れてしまったが、大きなゴミ袋を使うのもよい。缶をゴミ袋の中にすっぽり被せてからスーツケースに収めれば、万一の流出事故でも被害を多少軽減してくれる。

それから大事なのは、とにかく隙間を埋めること。まずは柔らかい箱などで大きなスペースを潰す。

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ついで、丸めた靴下やお土産のお菓子などでさらに小さな隙間をぎゅうぎゅう詰めて、固定する。

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最後にシャツなどの大きめの衣類で全面をカバーする。お見苦しい洗濯物で申し訳ない。

以上、世界一ときめくスーツケースのパッキングが完了である。ときめき総量がインクレディブルな感じになってしまった。とても出張帰りのかばんとは思えない。あとは中身の無事を祈って持ち帰るのみ。

 

俺はうまいビールを手に入れ、納税者になる

国をまたいで酒を持ち込むというのは、ほぼ世界中で何かしら制限のかかる行為である。であるからして、こうして記事にまとめる以上、とにかくリーガルにいきたい。その上で関門は2つある。

 

①まずは出国時の機内持ち込み。

当然のことながら、液体なので預け入れ荷物となる。ここで航空会社の重量制限をパスしなければならないのは言うまでもない。小さなスーツケースにしては異例の重さだが、ここは問題なくクリア。ただ実はもう一つ懸念があった。それはアメリカにおける航空機へのアルコール持ち込み量制限である。*1

米国政府出版局によれば、要するにアルコール24%を超える酒類には量の制限があるのだが、24%以下に関しては量に関する記載がない。ビールはもちろん24%に満たないわけだが、これは無制限ということでいいのか…?わざわざ確認してやぶ蛇になるのも嫌だ。だがあとからCIAに付け狙われるのはもっと嫌なので、思い切って空港のカウンターで確認してみた。

「この荷物、ビール入ってるんだけど」

「ああん?ビールだって!?これ全部か!?」

「(このおじさん怖…)重量の半分くらいかな」

「どこのだ!?」

「ほぼテキサス(出国する空港がある)です」

「Wow!!!あんたクレージーだな、最高!わはは」

ということで、無事にパスした。(したのか…?)

 

②続いて入国時の税関申告。

免税範囲を超えて酒類を日本に持ち込むということは、輸入と同じなので、自分で酒税を払わなければならない。機内で配られる黄色の税関申告書。これに持ち込み内容を記入する。

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表面の「免税範囲を超える購入品・お土産品・贈答品など」にチェック。裏面には詳細な本数や量を記入。

荷物をピックアップしたところにある税関申告で、用紙を提出する。

「このスーツケースにビール入ってます」

「はいはい、酒類の持ち込みね…多くない!?」

とここでもアメリカと同じやりとりがある。電卓でかちゃかちゃと計算し、書類を渡してくれる。これをすぐ近くにある銀行窓口に持っていき、現金を支払うだけ。簡単なものである。ポイントはとにかく申告は正直に、ということに尽きる。そもそも2リットル少々までは免税範囲だし、それを超えても1リットルあたりたった200円なのだから。

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よし、納税完了。しかし消費税以外で直接税金を払う機会なんて無いから新鮮だ。これが意外と、どうしてなかなかいい気分である。みんな見てくれ、俺は納税者さまだぞ。うまいビールを手に入れたうえ、酒税が払えるなんて最高じゃないか。

 

 

ようこそ我が家へ

自宅に着いて、スーツケースを開ける。流出事故は…なし!完璧な状態でビールを持ち帰ることに成功した。早速、冷蔵庫に収納してみる。

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これはいい眺めである。アメリカからきたスター軍団のビールが、我が家の冷蔵庫を埋め尽くしている。出発前から自宅にいた、第3のビール(本麒麟)はちょっと所在なさげだ。ごめんね、君の普段の働きにはとても感謝しているよ。

 

 

・・・

いかがだっただろうか、アメリカからビールを買ってくる方法。本当に身も蓋もなく、スーツケースに入れるだけなのだけど。最後に今回買ってきた中で、ひときわユニークなビールたちを紹介したい。アメリカのクラフトビール、派手なのは外観だけではない。生き残りをめざす中で、味の方向性もどんどん先鋭化された、クレイジーなやつらだ。以下、厳選した4本である。

 

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こちらはウィートと呼ばれるタイプのビール。小麦を使ったビールというのは優しくて甘くてまろやかな風味が多いのだけど、まずゴリゴリに味が強い。パンかビスケットを食ってんのかというくらい小麦が強い。そしてそこにオレンジ風味が効いている。アクセントとかではなく、小麦風味と真っ向から殴り合うかのようにオレンジが効いている。ようするにめちゃくちゃ濃い。そしてうまい。

 

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これはサワーと呼ばれるタイプ。サワーの主な特徴としては、死ぬほどすっぱい。ただギンギンにすっぱい中で、副原料のラズベリーがちゃんと生きている。ラズベリー風味というのは何か。酸味である。酸味に酸味をぶつける。酸味天国、あるいは地獄。うまいのか?それは俺にはよくわからない。

 

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これはゴールデンエール、俺の大好きなタイプ。ゴールデンエールにはあっさりライトと、どっしり重たいのがあるが、これは前者。しかしこいつの場合は、なぜかそこにバニラフレーバーが加わっている。味はなんというか、未知。もう飲んだのに、今も未知。人類にはすこし早かったのかもしれない。

 

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これはベルジャントリペル呼ばれるタイプ。ベルジャンというタイプ自体は優しい甘みで大好きなのだが、トリペルとつくと急にアルコール度数が暴力的になる。これも10%を超えているので一発でべろべろに酔う。ノックアウトされる。ただうまい、ものすごく濃くてうまいぞ。いや、ホントに飲んだっけな。記憶が曖昧だな。

 

 

クラフトビール革命 地域を変えたアメリカの小さな地ビール起業

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*1:https://www.ecfr.gov/cgi-bin/retrieveECFR?gp=1&SID=bba5ad06518b529c94e1d67a3270196b&h=L&mc=true&n=pt49.2.175&r=PART&ty=HTML 

(i) Not more than 24% alcohol by volume; or

(ii) More than 24% and not more than 70% alcohol by volume when in unopened retail packagings not exceeding 5 liters (1.3 gallons) carried in carry-on or checked baggage, with a total net quantity per person of 5 liters (1.3) gallons for such beverages.