1万人が熱狂するお茶の祭典

世は「フェス全盛」の時代である。日本におけるフェスのさきがけといえば音楽フェスだが、昨今は「ビアフェス」や「肉フェス」に代表されるように、さまざまなグルメをテーマにしたフェスが次々に生まれている。一年中、全国のどこかで何かしらのイベントが行われ、グルメフェスが国民的娯楽の一つとして定着してきた感がある。ではここで問題提起。「お茶フェス」というのはどうだろう。

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ハレの日だから、ハレのテーマ

たしかにフェスは楽しい。同好の士で空間を共有する一体感。大好きなもの一色で塗り固められた会場への没入感。年に一度、決められた時期に行われる祝祭感。どれをとっても、まさにハレの日。コト消費の申し子である。

だがその性格上、フェスには明るく賑やかなテーマ設定が求められるのも当然のこと。音楽フェスならいいが、詩吟フェスはたぶん盛り上がりに欠ける。肉フェスはアリだが、はんぺんフェスではちょっと弱い。ためしに世にどんなフェスがあるかざっと調べたところ、出るわ出るわ。派手なフェスが。

ビアフェス、肉フェス、激辛フードフェス、餃子フェス、ピザフェス、ラーメンフェス、B級グルメフェス、からあげフェス、スイーツフェス、チョコレートフェス、カレーフェス…

ほら。なんか全体的に誕生日のオードブルみたいなラインナップ。一つとして教室の端っこでじっとしていそうなものはおらず、全員、陽キャラ。ハレのイベントに、ハレのテーマ設定はある意味当然なのだ。

 

お茶フェスは成立するか

で、「お茶フェス」である。お茶…きみは本当にメインが張れるの?集客できるの?

いや、個人的にはお茶は好きなほうだ。ただ贔屓目に見ても、華がない。お茶は、良識ある紳士淑女にこそ愛されるもの。そして一服の安らぎを与えてくれるもの。上品さと優雅さが身上のお茶に、祭りの盛り上がりを期待するのは荷が重いというものである。

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お茶で大騒ぎなんて、ボストン茶会事件しか知らない(ボストン茶会事件-Wikipediaより)。

 

しかし結論としてこの疑念は、大いなる杞憂であった。楽しい。盛り上がる。お茶フェスは完全に成立する。会場を包んでいたのは静かな熱狂と、お茶への深い愛情であった。

 

 

世界のお茶、大集合

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イベントの名を、ルピシアグランマルシェという。なんとこの通り、会場は満員御礼である。決して小さな会場ではない。なにせここ、先日G20サミットが行われたインテックス大阪である。トランプと安倍首相と習近平が小さな長机で物理的な接近を見せた、あのインテックス主催者発表から類推すると、ざっと1万人近くを集客しているようだ。ここには塊肉もビールもない。1万人がこぞって、お茶をしにきているのである。

来場者のお楽しみはなんといっても、会場の中央部を占めるお茶の試飲ゾーン。飲み放題の、時間無制限である。新しいお茶が淹れられるとスタッフが大きな声でお知らせし、そのたびに人の波がどわーっと押し寄せる。押し寄せる…のだが、さすがお茶ファンは根っからの紳士淑女である。みんなお上品に、譲り合いながら行儀よく並ぶ。

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「あら、ごめんあそばせ」

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「いいえ、よろしくってよ」

 

 

ただ、あくまで表面上は平静を装いつつも、お茶ファンたちの心のうちは浮かれまくっているはずだ。なぜなら会場には120種類以上にもおよぶお茶が試飲用に用意されているのだ。紅茶、緑茶、中国茶などはもちろんのこと、ハーブティーや野菜由来のノンカフェイン系も充実しており、思いつく限りすべてのお茶が、世界中からここに集結している。

 

デカフェアールグレイはあるかしら?」

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あるよ。

 

キンモクセイの華やかな香りの烏龍茶、『黄金桂』が飲みたいんだけど」

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あるよ!

 

「深みのある香ばしさと豊かな甘み。頑固一徹、焙煎士がこだわり抜いて二段階火入れのほうじ茶、『鬼の焙煎』は…」

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あるよーーーーー!!!!

 

 

さらに圧巻なのが、スイーツ系の紅茶である。例えばこの「ストロベリーショートケーキ」。お茶の名前とは思えぬほどファンシーなお名前!風味はというと、無糖なので甘みこそないが、ベリー系の爽やかな香りと、クリームを思わせるもったりとした甘い香りがある。なるほど、ショートケーキか…言いたいことはわかるぞ。さらに「チョコバナナパフェ」。これはバナナの香りがあまりにあからさまで思わず笑ってしまった。もちろん紅茶としては十分においしい。ほかにも「クッキー」、「オペラ」、「アップルパイ」、「マロングラッセ」など、洋菓子店のショーケースさながらのラインナップである。

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一通りスイーツ系紅茶を試飲して、これはよく出来ているとか、ちょっと無理があるとか笑いながら、ふと思った。俺いま、めっちゃ楽しんでいる…!

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買い物天国、あるいは地獄

飲み放題の次は、買い放題である。試飲したお茶は全て、その場で茶葉を購入することができるのだ。誇張ではなく、バイヤーかな?っていうくらい大量の商品を担ぎ歩いている人もそこかしこにいる。かく言う俺も、雰囲気に乗せられてずいぶん買い込んでしまった。だってこのイベント、隙あらば五感に働きかけて物欲を刺激してくる買い物天国なのだ。

 

この缶入り茶葉のコーナーはすごいぞ。

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都道府県(あといくつかの外国)をイメージしてブレンドした茶葉のシリーズだが、缶のデザインがめちゃくちゃ凝っている。

 

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もう、ほれぼれするほど可愛い。

 

ここでは試飲こそできないものの、一つずつ香りを確かめることができる。香りから味を想像するのもよし、ジャケ買いするのもよし。たくさんの候補からどれを買おうか悩むのは楽しいひとときだ。ただ俺にはわかる。これは沼だ。一つ買えば、必ずコレクションしたくなる。そういうタイプの沼。しかもどうせ魅力的な限定品がどんどん出て、一生コンプリートはできないのだ。ということで、強い気持ちでこの買い物アリ地獄への思いを断ち切ってやった。

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ここがフェスのメインステージ

このイベントのエンタテイメント性はここに極まれり。チャイの実演がすごかった。ぎゅうぎゅうの会場の中でも、ここはひときわ人口密度が高い。お姉さんの説明を聞きながら、チャイが淹れられる様子を眺める。ただそれだけなのだが、プロの手腕をじっくりと見るというのは楽しいものだ。音楽フェスのメインステージのように、人が吸い寄せられていく。

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「茶葉を入れたら弱火にするのがポイントです」

 うんうん(みんな無言でしっかりと頷く)。

 

「牛乳が沸騰する直前で火を止めます!」

うんうん(みんな無言でしっかりと頷く)。

 

この静かなコール&レスポンスが心地よい。途中、ダイブ(最前列のお客さんにお茶がハネる)のアクシデントもありながら、15分ほどで甘くスパイシーな香りのチャイが出来上がった。

 

早速、長蛇の列ができるが、もちろん誰一人として列を乱すものはいないため、比較的スムーズに順番が回ってきた。さあ、ライブ感のあるチャイをいただこう。

 

 

 

なにこれ、言葉を失うほど激ウマ…。チャイといっても、実は紅茶ではなくベースがほうじ茶(加賀棒茶)なのだが、これが複雑なスパイスと絶妙にマッチするのだ。この日一番の感動。すぐにアンコールの列に並んだし、即お買い上げした。

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このイベントは愛に支えられている

一通り欲しいものを物色し、心地よい疲労を感じながら昼食を取っていたときに、ふと気付いた。なんか目の前のおばさん、胸のあたりにべたべたと丸いシールが貼ってある。「やっぱり日本茶」とか「紅茶好き」とか書いてある。そう、このシール、来場者が自分の喫茶の嗜好を表現しているのだ。

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スタッフとお客さん、あるいはお客さん同士がこのシールをきっかけにコミュニケーションできることをねらいとしたものだろう。なんかこれ、とてもいいじゃないか。お茶を愛するもの同士、この祭りをみんなで楽しんでいってね、という主催側の深い愛情を感じる。せっかくなので俺も、こんな感じで主張しておいた。

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あー、楽しかった。疑ってごめんなさい、お茶フェス、アリでした。大いにアリでした。帰りがけ、出口にアンケート用紙を見つけた。これだけ満喫させてもらったのだから、さらにいいイベントにしてもらうために、真摯に回答すべきだろう。そう思い、よかったこと悪かったこと、すべて正直に書き連ねて箱に入れた。

 

…が、入らないのだ。アンケート用紙がいっぱいすぎて箱に入らないのである。そんなこと、普通ある?このアンケートは、お茶ファンたちの強い愛がカタチとなったもの。もはや、ラブレターである。携わる人の愛が目に見えるイベントは、とてもいいイベントだということを改めて知る日であった。

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<補足情報>

これだけイベントをPRした挙句に後出しで申し訳ないのだが、実はこのイベント、お茶の専門店であるルピシアの会員向けイベントである。すなわち、誰でもフリーパスという訳ではない。ただ、ルピシアの店舗は全国に100店舗以上ある。しかも「世界のお茶専門店」を標榜するルピシアである。常設店舗でもイベント同様にわくわくする空間を楽しめるはずなので、興味が湧いた方はまず一度、お近くのルピシアに足を運んでみてほしい。そしてよければ会員になってみてほしい。ちなみにグランマルシェ自体は毎年、全国主要都市で順次開催されるため、参加しやすいのも嬉しいところ。

 

<ルピシア 店舗情報>
https://www.lupicia.co.jp/shop/