飲み会でビールばっかり飲む村の住人より一言

おれはビールが好きなので、居酒屋にいっても基本的にビールしか飲まない。席に着くなり「とりあえず生中」だし、2杯目3杯目と杯を重ねてもやはり生中である。

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ただ、ラストオーダーですと言われればそこはさすがに生中。「オイもう一軒だ!ジュリアンいくぞ!」と上司いきつけのスナックにつれていかれれば、まあ致し方なく中瓶である(ジュリアンにはビアサーバーがない)。

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そうすると、たいていの人はこう言う。「そんなにビールばっかりだとお腹いっぱいになるでしょ」。

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わからない。おれにはそれがわからない。お腹いっぱい、なりますか。これは10年ほど前に酒を飲み始めて以来、一貫して感じている疑問だ。おれは普段、コンディションがよければ生中で7〜8杯くらい飲んでいる。3杯目くらいから酔いは回る。5杯も飲めば自分でもかなり酔ってるなという感じがしてくる。そろそろビールがきついな、おいしくなくなってきたなと思うころだ。ただそれはアルコール摂取量の問題である。お腹いっぱいだからやめておこう、とはならない。もしかしたらおれは「飲み会でビールばっかり飲む村」の末裔で、特殊な遺伝子を受け継いでいるのかもしれない。

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「ビールでお腹いっぱいになるよ村」の住人によれば、犯人は炭酸であるという。ビールの泡あわがお腹に溜まるのだという。そんな馬鹿な。だって君たち、そんなこと言っておきながら、平気な顔して2杯目にハイボールを頼んだりするじゃないか。

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そんなわけでおれはずっと、ビールでお腹いっぱい村というのは、ウイスキーや焼酎の業界団体から補助金を受けているか、あるいは本当はビールを飲み続けたいけど痛風を患っているんだと思っていた。

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ところが最近だ。何かの飲み会でこの話を同僚にしたところ。おれは唐突に理解してしまった。同僚いわく。「ああ、きみ会食でもほとんど何も食べないもんね」。

 

え、なんですって。

 

そういうタイプの人間がいることはもちろん知っている。「酒とメシは別々だよ村」の住人だ。ただそれは、遠い遠い外国の話だと思っていた。おれが知っているあの村の住人というのは、主に角打ちや安酒場を住処としていて、酒を飲むことにストイック。つまみは乾き物かお新香。顔を真っ赤にしながらぐいぐいと飲み続け、最後に完全に据わった目つきで「うめ茶漬けぇ、ひとつっ!!」と大声で叫ぶのだ。

 

おれは違う。たしかに大食らいではないが、ビールを飲みながらちゃんと鳥の唐揚げやソーセージも食べるじゃないか。

 

別の同僚がいう。「でも炒飯やポテトみたいな炭水化物には絶対手を出さないですよね。ていうか今も、皿の上に最初にオーダーした餃子残ってますけど」。

 

う…。そうか。そうだったのか。おれは酒を飲むときはメシを食わないのか。だからビールを飲み続けても腹がいっぱいになるとは思わなかったのか。たしかに言われてみれば薄々、飲み会でみんなよく食うなと思ってはいた。

思い当たる節もいくつかある。結婚式のコース料理のように自分のペースで食事ができないときは、高確率でメイン料理を残していた。なんか結婚式って緊張してご飯があまり食べられないよなんて笑いながら、新婦が感謝のお手紙を読む段になってもしつこく瓶ビールを給仕係にオーダーしていたのだ。

 

結局のところ、そういうことなのだ。おれは「飲み会でビールばっかり飲む村」だけでなく「酒とメシは別々だよ村」の血も引いていたのだ。物語の終盤で、自分の意外な出自が明らかになった漫画の主人公のような気持ちだ。

 

なんて大袈裟に言ってはみたものの。酒を飲むというのは、基本的にパーソナルな行為だ。人さまに迷惑をかけない範囲で、何をどう飲もうが人の勝手である。もっと若いときならいざしらず、30にもなると酒の飲み方についていちいち人から指摘されることもないし、自分の飲酒習慣について深く考える機会などない。そんな中で、長年にわたり無自覚だった習慣が明らかになって大変驚いたと。まあそれだけのお話。一つ記事を書いたらいい時間になったので、そろそろ居酒屋も開いたでしょう。とりあえず生中で。

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廃業したまんまの銭湯でビール

暖冬とはいえ寒気厳しき折柄の一月。殊にここ数日の冷え込みは全国的に厳しい。こんなときは大きな風呂につかってゆっくり温まるのがよい。電車で少しいったところに面白い銭湯があるということで足を伸ばしてみた。

 f:id:nadegata226:20200118145700j:imageぐねぐねした住宅街のど真ん中。

f:id:nadegata226:20200118145610j:imageなんかずいぶん暗いけど。

f:id:nadegata226:20200118145729j:imageおお、ここであってるみたい。

f:id:nadegata226:20200118180754j:imageすみませーん、番台さん?

f:id:nadegata226:20200118181015j:imageあれ、誰もいないんだなあ。

f:id:nadegata226:20200119150042j:imageずいぶん年季の入った雰囲気。本当にやってるのかな。

f:id:nadegata226:20200118180834j:imageお、人が出てきた。え?とりあえず一杯どうかって?

f:id:nadegata226:20200119150621j:imageで、これですか。おれ、コーヒー牛乳よりはフルーツ牛乳派なんだけどな。そもそも牛乳はやっぱり風呂上がりがいいんだけど。

 

ごくごく。

 

ホップがキリキリ効いてしっかり苦味がありながら、モルトの優しい甘みと調和してうまい。いやこれ、牛乳瓶に入ってるけどビールですよね。なるほど、銭湯でクラフトビールを提供してるわけですか。

 

「いえ、ウチは廃業した銭湯を改装して始めたビールの醸造所です。風呂はやってません」と若い店主。

 

はあ、そうでしたか。それにしても雰囲気ありますね。

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やっぱり、廃れつつある銭湯文化を保存したい的な発想なのかな。

 

「いえ、この試飲スペースは改装が面倒で、単純に銭湯の内装をそのまま放置してるだけです」と店主。

 

なんとも男前な回答。まあなんにせよ、せっかくの不思議空間で、せっかくのうまいビール。小難しいことは考えずに楽しみましょう。

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f:id:nadegata226:20200119155844j:imageうーん。しかし、酔いが回ってくると。

f:id:nadegata226:20200119153349j:imageやっぱり不思議な気分だ。

f:id:nadegata226:20200119162420j:imageどうみても銭湯そのものだけど。

f:id:nadegata226:20200119153345j:imageたしかに湯は張っていない。

f:id:nadegata226:20200119153526j:image「ご注意」も、

f:id:nadegata226:20200119153815j:image水風呂も、
f:id:nadegata226:20200119153805j:image洗い場も、全部そのまま。

 

しかも、変にキレイに整えられていない感じが違和感を増幅させる。最近、銭湯をリノベーションして、カフェや居酒屋にする店舗はちょっとした流行りだけど、ここは一切の飾り気がない。言うなれば廃業した銭湯そのまんまの姿。そこに一人ぽつんと座って牛乳瓶でビールを飲む。シュルレアリスムが過ぎて、なにかに化かされているか、夢でも見てるみたいだ。

 

本当にこんなとこでビール作ってるのかな。

f:id:nadegata226:20200119162558j:imageあ、醸造用のタンク。本当にやってんだ。ちなみにあっちが男湯。ということは今いるのは女湯。どちらも「元」だけど。

 

 

 

f:id:nadegata226:20200119164203j:imageいやー、飲んだ飲んだ。思ってたのとは違うけど、結果として体も温まった気がする。ごちそうさまでした。

 

でも店を一歩出ると、実はやっぱり化かされてて、
f:id:nadegata226:20200119164158j:imageビールだと思っていた液体は消毒くさいお湯だった。なんてこともなかった。

 

 

 

 

・・・

お邪魔したのはこちら。

  

ajgtojud.wixsite.com

試飲スペースの営業は土日の12:00〜16:30。ちなみにフードの提供がない代わりに、なんでも持ち込みOKの良心的すぎるルールです。

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黄金は北方よりもたらされる

黄金は富。黄金は財。黄金とは、貴重なものの代名詞。大航海時代には胡椒一粒は黄金一粒などといったもの。ならば菓子で例えればどうか。フィナンシェだろうか。あれは金塊を模した形状だけか。では黄金糖か。あれはべっこうのような色味が似ているだけだ。それならば、やはりマルセイバターサンドだろうか。

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この黄金は、北方に浮かぶ島よりもたらされる。仕事がら常より諸国を旅し、また客人多く訪ねくる我が職場には、各地の産物が集まる。中でも格別の威容を誇り、格別の喜びをもって迎え入れられるのがこの黄金。小麦と乳のインゴット。

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かの島では、人よりも多くの牛が住むといい、その乳の美味なることは広く知れ渡る。幾許の乳を練り上げ、小麦菓子で挟んだこの黄金は、風味絶佳にして滋養豊潤。口中来福にして栄養満点。また過剰な熱量に溢れることでも名高い。一つ165kcal。

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美味であることもさることながら。この菓子は黄金であるからして、換金性がある。

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先日は職場に箱単位で大量の黄金が持ち込まれたことで、一つの経済圏が生まれた。みな、こぞって黄金を得るための取引を望んだ。平均的な相場としては、黄金ひとつで板チョコや缶コーヒーが購える。東京銘菓 ごまたまごなら、ふたつに相当する。

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鈍く光沢を湛えた赤い輝きは、賢人の目をも曇らせる。手に取ればずしりと確かな、そして甘美な重みが感じられ、いかなる堅物も弛緩させる。まさに現代の山吹色のお菓子。

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ただしいかに黄金といえど、価値は不変ではない。

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後生大事に出し惜しみすると、いつのまにか品質が劣化して市場価値が暴落することがある。購入後は冷暗所に保管し、お早めにお召し上がりください。

 

 

 

六花亭 マルセイラベルマスキングテープ
 

 

紅茶のしっぽ

今まで気にも留めなかったものが、ある日とつぜん気になりだすことがある。で、最近は紅茶のティーバッグの先にくっついてるしっぽのような、小さな紙切れが気になっている。

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コーヒーよりお茶派のわたくし。今まで飲んできたお茶類は数知れず、紅茶を飲むたびにしっぽちゃんの存在は認識していたが、カップの持ち手にくるくるっと巻きつけたあとは完全に意識の外にあった。

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しかしよく見るとひとつひとつデザインやカタチが凝っている。しかも切手サイズでついつい愛でたくなるような可憐さだ。

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ティーバッグそのものは個性がない分、タグにはほんの少しだけ遊び心を表現することができる。その控えめなかわいさに一度気づいてしまうと、もう無視なんてできない。むくむくと収集欲がもたげてくる。試しに二週間弱、このしっぽちゃんを意識的に集めてみた。会社では毎日お茶。喫茶店に入っても積極的に紅茶を頼み、ひとまずこれだけ集まった。

f:id:nadegata226:20191126222001j:image全員集合。

 

f:id:nadegata226:20191125205836j:image日東紅茶は王道のポット柄ですね。

f:id:nadegata226:20191125205840j:imageルピシアは小さめの正方形でクラシカル。

f:id:nadegata226:20191125201010j:imageなんの模様かと思ったら身もふたもない「茶」の羅列。

 

うんうん、みんな違ってみんないい。俺はこういうちまちました紙類にめっぽう弱いのだ。ところでこのしっぽちゃんは、ちまたではティータグ(tea tag)と呼ばれているらしい。高度に情報化された社会において、正式名称がわかることは重要な意味を持つ。さらなる情報を求めて検索ができるからだ。イエス、ググラビリティ。

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ああ、やっぱり。この世はかわいいしっぽで溢れている!しかも趣味としてティータグ収集する界隈がそれなりに繁栄している模様。これは素敵な世界を見つけてしまったぞ。

 

さてこうなると、俺だって素敵なコレクションを作りたいし、誰も持ってないレアなしっぽちゃんを自慢したい。しかしお茶ってやつは、一箱買うとなかなか消費するのに時間がかかる。すでに職場にも自宅にも、中途半端に余った茶葉で溢れかえっており、そう気軽に新しいのを買える状況ではない。ああ、これまで無為にしっぽちゃんを捨ててきたことが非常に悔やまれる…。

 

ではどうするか。こういうときは自分で勝手につくってしまえばいいのです。

 

f:id:nadegata226:20191126213036j:imageこちらは頂き物のスリランカの紅茶。


f:id:nadegata226:20191126213047j:imageもともとこんな正統派しっぽがついてますが。

 

f:id:nadegata226:20191126213043j:image外箱から適当な箇所を探して、オリジナルしっぽに。


f:id:nadegata226:20191126213039j:imageで、切り抜いたのがこちらのおじさん。絶妙なサイズ感でしょ。糊でヒモをつけて完成。


f:id:nadegata226:20191126213032j:imageちなみにこちらのおじさん、一代で世界的紅茶ブランドのDilmahを築いた創業者であらせられるぞ。いわく人生の60年を紅茶に捧げてきたスゴイ人で、ある意味ブランド名なんかよりもよほどしっぽにふさわしい図柄だろう。おじさんの努力、ぼくは見てますよ。誠に勝手ながら、すこしいいことをした気分である。

 

次はウズベキスタンで買ってきたこの緑茶。

f:id:nadegata226:20191127213859j:imageカラバリの意味は分からないけど、ゆるいゾウさんがかわいくて全色買ってしまったの。

 

f:id:nadegata226:20191127213929j:imageちなみに箱の中身はティーバッグではなく茶葉タイプなので、オフィシャルなしっぽちゃんは存在しない。

 

f:id:nadegata226:20191127214505j:image外箱を展開して。さあどこを切り出してやろうか。

 

f:id:nadegata226:20191127214548j:imageやっぱりセンターの彼の存在感が際立ってるよね。

 

f:id:nadegata226:20191127214616j:imageはい最高。かなりレアものの雰囲気を漂わせている。実際、デザイン性を売りにしたティーバッグでは、ネコやウサギをかたどったタグも存在する。しっぽは必ずしも四角である必要はないのだ。もしこの会社がティーバッグの販売を開始するときは、ぜひこのデザインを検討してもらいたい。

 

 

さらにもう一つ、中東・オマーンで買った緑茶。

f:id:nadegata226:20191127223542j:imageエキゾチックで少し怪しげですが、ちゃんと緑茶です。

 

f:id:nadegata226:20191127223626j:imageここはやっぱり特徴的なアラビア文字をいかしたいところだよね。

 

f:id:nadegata226:20191127223738j:imageということで、こんなしっぽに。

 

f:id:nadegata226:20191127223907j:image実は外箱の裏地がこんな感じの模様なのでした。ブランドロゴが小紋柄のように並ぶ感じが、いかにもしっぽにありそうなデザインだったので。

 

最後に京都の老舗茶屋のほうじ茶。こんなかっこいい紙袋、中身が空いたからといって捨てるわけにはいかないでしょ。

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f:id:nadegata226:20191128172134j:imageまー、ここしかないよね。

 

f:id:nadegata226:20191128172158j:imageでかいけど。まー、でかいけど。でも許す。最高にかわいいから。しかもさっきまでほうじ茶が入っていただけあって、このしっぽちゃん、香ばしくていい匂いがするんです。

 

 

 

 

・・・

f:id:nadegata226:20191128172337j:imageかくして、寂しかったぼくのコレクションに、世界で一つだけの個性的なしっぽちゃんたちが加わったのでした。めでたしめでたし。

 

 

 

京都のお茶屋さん

京都でちょっといいお茶屋さんにいってきた。近々、海外の知人を訪ねるので、お土産のお買い物である。

 

きちんとした老舗のお茶屋さんに来たのはこれが初めてだ。このお茶屋さんのこともよく知らない。ただ、いい店だったのだ。賑やかな通りにあって入りやすい。古くてこじんまりとしている。年配のご主人は常に笑顔。格式のあるお店なのだとは思うのだけど「名店でござい」というニオイがしないのが特によかった。

 

とはいえそこは京都の老舗。雰囲気は抜群だ。俗な言い方をすれば、外国人観光客は大喜びだ。敷居を跨げば、ぴりりっと空気が変わる。カウンター越しに見える茶壺や木箱はふしぎな魔力を発している。柔和なご主人の説明を滔々と聞いていると、日常の些細な悩みは忘れてしまう。アマゾンプライムを解約し忘れてしまったこととか。

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買ったのは煎茶と焙じ茶で、おまけの茶筒を合わせても大した金額ではない。それでも始終、丁寧に対応してもらって、いたく感激した。本当に幸いなことに、いい店だったのだ。こういう専門店に行く場合、初めての店の印象は大切だ。いやな思いをしたり恥をかいたと思ったりしたら、その文化に触れるための扉はいったん閉ざされてしまう。ばたん。おかげで俺はお茶の専門店というものにまたいこうと思えたし、たぶんこの店が筆頭候補になるだろう。

 

15分ほどの買い物を終えて通りに戻ると、テレビの撮影をやっていた。三連休の賑やかな通りの中でも、ひときわ人が集まって団子状。そんな。あからさまな。と笑ってしまった。

キリル世界のゴミ、ぜんぶ持ち帰る

海外旅行好きの界隈において、旅の記録をどう残すかというのは議論の尽きない課題である。写真を撮るとか文章に残すとかさまざまな手法が考えられるが、一つのソリューションとして我が家には、旅行中に発生するアレコレの紙類を貼り付けているノートがある。

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https://dailyportalz.jp/kiji/gomi-note_saiko

(この記事は、デイリーポータルZの17周年を祝して開催中の、名作記事カバー企画に捧げるものです)

 

貼り付けてあるのはレシートとかバスのチケットとか瓶ビールのラベルとか。要するに旅行先の"ゴミ"でつくるスクラップブックである。

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たしかにこれらはゴミの寄せ集めには違いないのだが、それでも折に触れて見返してしまう不思議な魅力がある。たぶん、ここに貼ってあるものはぜんぶ、かつて旅先に実在していて、飛行機で一緒に帰ってきたリアルなモノだからだ。写真や文章で記録に残す行為はいかに上手でも、あくまで制作者のフィルターを通した二次的なもの。一方で現地から持ち帰ったゴミは確かにゴミでも、かつて旅の一部、旅そのものだったゴミなのだ。

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さて。このノートをバラバラめくっていて気づいたことがある。なんかやたらと存在感を放つゴミの一群があるのだ。それはロシアを中心とした、キリル文字の文化圏から持ち帰ってきたゴミたちである。

 

キリル文字の妖しい魅力

キリル文字というと「Д,Ж,Б」などよく顔文字に使われるアレである。中にはラテン文字(A,B,C...)に似た文字もあるが、読み方がまったく違う場合も多く、もはや暗号のようである。

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もちろん旅をする上では、厄介な存在である。田舎のトイレで切羽詰まっているときに、入り口に手書きで「М」「Ж」とだけ書いてありどっちが男性なんだと崩れ落ちたこともある。だが読めないからこその楽しみもある。限られた情報量のなかで嗅覚を研ぎ澄まし、窮地を乗り越えていくのは旅の醍醐味の一つだ。もちろんその結果として反対向きの電車に乗った経験は何度となくあるが。

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適度な不便さは、旅を楽しくすると俺は思っている。むしろこの読めそうで読めない感じが、自分の知らないパラレルワールドに迷い込んだようで、強烈な旅情を演出してくれる。かっこよくいえばキリル文字が、旅が面白くなる魔法をかけてくれるのだ。

f:id:nadegata226:20191026150403j:imageロシア・イルクーツク。よくあるヨーロッパの街並みなのに看板が読めない。左に曲がれば魔法学校とかあったりしないかな。

 

はるばるそんな地域から持ち帰ってきたゴミたちが、妖しい魅力を放つのは当然である。厳選したキリル世界のゴミをご紹介させていただこう。

 

 

旧共産圏、独特の書類文化

そもそもの話。キリル世界では他の地域よりも余計に紙ゴミをもらうことが多い気がする。例えばこの、悪名高いレギストラーツィア。

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外国人に対して滞在中にどこに泊まっていたのかを証明させる書類で、出国時にこれがないとたいへんなことになる(らしい)。旅行者に厳しかったソビエト時代の遺物らしく、最近はルールが緩和されているとも聞くが、一部旧ソ連圏には残る。

 

普通なら小さな紙切れで済むところが、やたらとかっちりした書類が発行されるというケースもよく見られる。

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古めかしい紙にいかついキリル文字。それだけで何か重要な許可証をもらったような気分になる。だがなんのことはない、ウズベキスタン・ブハラの博物館の領収書である。

 

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「道中で特別な便宜を図ってもらえるよう関係の諸官に宛てた親書」みたいな雰囲気を漂わせる、ロシア・ウラジオストクのタクシー支払い証明書。便宜どころか「よくわかんないからこのへんで」とへんなところで降ろされた。

 

それから、やたらとでかいハンコがいたるところに押されているのも、旧共産圏の書類文化を象徴しているようで面白い。

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ロシアのレギストラーツィア。

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モンゴル・ウランバートルのバス。

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ロシア・ハバロフスクのホテル。
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ロシア・ウラジオストクの封筒。

だいたいみんな「ッダーーーン!」と元気いっぱいにハンコを押してくれる。かっこいいハンコがあれば、紙ゴミの魅力は3割増だ。

 

さてここまでにすでにいろんな国名が出てきたことからわかるように、キリル文字の文化圏は意外と広い。源流はギリシャ文字だし、キリル発祥の地は東欧のブルガリアと言われている。キリル文字=ロシア語ではないのだ。まだまだ各国のユニークな紙ゴミは続く。

 

レトロでクールな市民の足

旅先ではタクシーも多用するが、機会があれば一度は公共交通を使うようにしている。乗車ルールが不明瞭で度胸がいるが、そのぶん乗り物に乗ること自体がアトラクションになるし、何より切符などの貴重な紙ゴミが手に入る。キリル世界では車両そのものもレトロでかっこいいが、乗り物系ゴミも趣があっていいぞ。

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ロシア・ハバロフスクのバスチケット。ぺらぺらのわら半紙にいかにも無機質な朱色の印刷。バスにはたいてい不機嫌な顔をした集金係が乗っている。乗車すると混み合うなかをぐいぐいと近づいてきて、きっちりと数十円の運賃を徴収して無表情で去っていく。べりっと無造作にちぎった跡が生々しく残るこのチケットは、その一連の文化を有形にする"一級品のゴミ"である。

 

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これはブルガリア・ソフィアを走るトラムのチケット。オールドファッションな雰囲気を残しながら、ロシアのバスにくらべて紙もしっかりしているし、洗練されている。ただその代わり、トラムそのものは期待を裏切らずボロい。

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重い雲、古いアパート、そしてボロいトラム。いわゆる"ソビエトみ"の強い写真である。

 

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一転して急にハイセンスなデザインのこちらは、ロシア・モスクワの地下鉄のチケット。しかもかなりしっかりした厚紙で、金がかかってそうなのに、なぜか使い捨て。おかげでこんなにかっこいいゴミがたくさん手に入ってうれしい。

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Suicaの上からパスケースにいれれば、日本の地下鉄でもロシア気分が味わえるお得なゴミだ。

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ウズベキスタンタシュケントの地下鉄はジェトンと呼ばれるプラスチックコインで入場する。ちなみにどちらの国でも地下鉄の構内は、歴史の厚みを感じさせる美しさだ。個人的に一押しの観光スポットである。

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長距離移動のゴミはでかい

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キリル世界で憧れの乗り物No.1といえばご存知、世界最長を誇るロシアのシベリア鉄道である。eチケットながら、大判で情報量が多くて嬉しい。しかも英露併記なのでちゃんと意味もわかる。

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f:id:nadegata226:20191026145509j:image移動時間が長いので、車内で何度も読み返した思い出深いゴミだ。モスクワから4泊5日、車内に缶詰で寝正月を過ごした記録はまたいつかまとめて記事にしたい。

 

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同様の長距離寝台列車旧ソ連各地に残っていて、ウズベキスタンではこんなチケットを手に入れた。日本にいると、たまに新幹線のチケットを手に取るとでかいなと感じるが、これはさらにその4倍くらいある。旅行中は邪魔くさいんだけど、旅の思い出としてはこのくらい大きいほうがありがたみがある。

 

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カザフスタンのアスタナ航空。ロシア系の航空会社でもそうなのだが、飛行機が着陸すると乗客たちが一斉に拍手する謎の習慣がある。やはり昔は結構な割合で堕ちていたとかいう背景があるのだろうか…。ちなみに機内や空港は撮影禁止のことが多く、記録のためにゴミを持ち帰る意義はことさら大きい。

 

 

ビールはローカル文化の象徴

むかしから、旅と酒は切っても切れない関係にある。酒は現地の習俗の映し鏡であり、酒場に行かずして訪ねた街を語ることはできない。なかでもビールはもっともワールドワイドなアルコール飲料である一方で、地域ごとの嗜好にあわせたローカル性も併せ持つ。国を知りたければ、その地のビールを飲み、そしてラベルを持ち帰るべきなのだ。

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キリル世界のNo.1ブランドはやはりロシアのバルチカ(左上)。シンプルながら力強さを感じるのは、やはり見慣れない文字のせいか。

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総じて、味もラベルも質実剛健なビールという印象である。しかしロシアビール、よく見ると少し意外なことに、全体的にアルコール度数が低めだ。3.6%や4.0%なんて日本でなかなか見ない。「酒なんて酔えればいい、工業用アルコールを持ってこい」なイメージを勝手に抱いていたが、意外に繊細なのかもしれない。

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繊細といえば、ブルガリアのレトロかっこいいビールは、4.95%と度数がやたらと細かい。なんなんだ。どうしても5%超えたくないのか。それはさておきシビれるデザインである。こちらを拒絶するようなタイポグラフィの堅さと、いっさい媚びのない色遣い。一番下に小麦の図柄がなければ工業製品のラベルといっても通じそうだ。しかし実は、これでなかなかおいしいのだ。

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ゴミを持って帰れなかったのが残念だが、ウズベキスタンサマルカンドではなぜか10%くらいのハイアルコールビールが市場を席巻している。宿泊先で地元の人にぐいぐいと勧められてノックアウト寸前になった。ちなみにウズベキスタンではソ連時代を生きた年配者は酒を飲むが、独立後イスラム教に回帰して以降の若者はあまり酒を飲まないという世代間ギャップがあるらしい。

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余談ながら、ぜひ日本にも導入してほしいのがロシアのビール充填マシーン。好きな銘柄を選ぶと、店員さんがペットボトルに充填してくれる。当時、500円くらいで2リットル詰めてくれたような気がする。最高としか言いようがない。

 

たべものゴミは緊張感が増す

最後にまとめて食品関係のゴミ。旅先ではそもそも口に入るものにとにかく気を使うが、キリル文字は得もいわれぬ緊張感を演出してくれる。

 

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ロシア・モスクワ。安心のグローバルブランド「クノール」と、素性の知れないキリル文字の共演。結局キリルの不安さが勝ち、未開封のまま帰国、そのまま賞味期限を切らしてゴミになってしまった。ちなみに中身はかの有名なロシア料理、ボルシチ

 

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ブルガリア・ソフィア。牛だからミルクかな、甘いお菓子だなと思ったらやはりキャラメル。ゆるくてかわいいんだけど、レトロなフォントにわずかな緊張感が漂う。

 

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モンゴル・ハラホリン。文字が読めず写真もなく、缶詰で中身も見えないとなれば完全にギャンブル。中央の青い缶詰があまりにかっこいいのでジャケ買いしたのだが、空港で没収されてしまい幻のゴミに。欲しかったな、このラベル。


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別の意味で緊張感があるロシア・ハバロフスクのチョコレート。商品名はサハリン。甘いチョコレートにも、祖国愛である。

 

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ウズベキスタン・ブハラのお茶。ウズベキスタンでは緑茶が好まれ、とにかくたくさんお茶を飲む。象のイラストがゆるかわなのに、なんでこのキリルはこんなにアグレッシブなデザインなんだろう。ちなみにパッケージの95と110はなんの数字かなと思ったら「特に意味はない」とのことだった。

 

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モンゴル・ウランバートルのチョコレート。これはかわいい!5枚ください!と思ったのだが、よく見れば英語。なんともったいない。観光客向けということなのだろうけど、モンゴル文字キリル文字だったなら俺が10枚は買うのだが。

 

 

おまけ:かんたんキリル文字講座

いかがだっただろうか。ゴミの話しかしてないくせに恐縮であるが、キリル世界の魅力が少しでも伝わっていれば幸いである。

最後に超簡単なキリル文字講座*1を少しだけ。俺はキリル世界の言葉はしゃべれないし単語もほとんどしらないが、旅を重ねるうちに文字だけは覚えたのだ。例えば、キリル文字のなかにはラテン文字によく似た字形のやつらがいるが、

Н→N

Х→H

Р→R

С→S

И→I

У→U

という対応になっている。これだけ覚えておけば、НИСИ ХИРОСИ(西 浩志)さんは自分の名前をキリルで書くことができる。さらに、好きな古道具を聞かれればИсиусу(石臼)と答えることが可能だし、もし万が一、日本語のフレーズを一つ教えてくれと言われたら、Хунсуи ни сири(噴水に尻)と自信を持って書ける。

加えていくつか頻出の文字を覚えておけば、もうバッチリ。地名がなんとなく読めるようになるので、バスや電車の行き先がわかる。さらにресторан(レストラン)やаэропорт(アエロポルト、空港)といった単語が読めるようになり、ずいぶん旅を助けてくれる知識になる。

 

丸腰でキリル世界に飛び込むのもスリリングでいいが、多少なりとも手がかりがあると、パラレルワールドを読み解いていく楽しみはぐっと増えることだろう。

 

 

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旅の指さし会話帳26 ロシア (旅の指さし会話帳シリーズ)

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*1:言語によって微妙に使い方が違うらしいが、ひとまずロシア語の場合

屋久島のベストシーズンはいつなのか 後編

もしお時間が許せば、前編からどうぞ。

nadegata226.hatenadiary.jp

「暗闇の山中を、明かり一つで歩いた経験は?」

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真冬の午前五時。屋久島の山中。縄文杉へと続くトロッコ道。前を照らすのはヘッドライトの明かりのみ。出発地点には意外とたくさん人がいるなと思ったが、15分も自分のペースで歩けば、もう視界には誰もいない。暗い。寒い。怖い。暗い。むかし木材を運び出すために整備されたレールの上を歩く。足元の人工物だけが心の支えだ。

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ロッコ道は、小川を越える橋にもなっている。手すりはない。
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高いところはキライなんだよ。
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7時半ころ、ようやく空が明るくなる。同時に、平坦なトロッコ道が終わり、ここからは雪道を登る。

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簡易スパイクをはいて、ずんずん進む。f:id:nadegata226:20191020104300j:image

巨大切株の中から空を伺う。

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整備されてはいるが、なかなか急坂も多い。
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うお、かっこいい。夫婦杉。
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ついた。

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普段は混み合うであろう、縄文杉を見るためのウッドデッキ。先客はおじさんが一人だけ。いろんな角度から縄文杉を眺め放題。これはぜいたくな時間だ。

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見終わればさっさと帰る。縄文杉は往復10時間の行程だ。歩くのに飽きてきて、誰もいない道をざくざくざくと大股で歩く。
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シュゴー。エネルギー切れの体に甘いカフェオレが沁み渡る。

 

14時前にバス停につく。予定より一つ早いバスに乗って宿に帰る。おかあさんが料理の仕込みをするところをカウンターから眺める。オーブンがたまに蒸気を吹き出して、ブェー!!とへんな音を立てるのを笑って見ていた。

 

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お腹が減ったので、早目にご飯にしてもらう。相変わらず、品数が多い。他の宿泊客と、トレッキングの情報交換して、ハートランドを飲んだらすぐ眠くなった。

 

翌朝。
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さて、屋久島の名所はまだまだたくさんある。ヤクスギランドは隠れた名所と聞く。てごわいモッチョム岳に挑むという手もある。だけど今日はやめた。せっかく屋久島まで来てもったいないけど、何もしない。今日は大晦日なのだ。

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そのかわり、空港近くにある温泉まで2時間ほどゆっくり歩いていく。途中、幅の狭い川がいきなり海に注ぐような景色があって、島だなと思った。案の定、風呂は貸切状態だった。ヒノキの大きな露天風呂を独り占め。誰も入ってこない。ぬるめの湯が心地よく、たまに飛行機の発着音を聞きながら、1時間半くらいゆっくりとつかっていた。昨日、一昨日の疲れが抜けていく。

 

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昼飯は屋久島らしさとは無縁のカツ丼。

 

宿に戻り、居間でのんびりしていたら、スイスから来た人がおしゃれなものをくれた。体感的には、いまこの島にいる3人に1人は外国人。
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今日の夕飯も、もちろん宿で食べる。豪華だ…!

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「年末年始に旅行してるってことは、実家に帰らないんでしょ?一日早いけどおせち風に盛り付けといたから」とおかあさん。


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「さあさあ、今晩は特別に3種類の焼酎を開けるよ。飲み比べしてね」とおとうさん。それは、あなたが飲みたいんですね。ささやかな宴会が始まる。


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山で食べなかったチキンラーメンで、年越しそばにする。ほかの宿泊客たちは、町まで降りて、神社の奉納太鼓を見にいくらしい。誘ってもらったけど、いい心持ちでもう歩き回りたくはない。少し寂しいけど、おやすみ。よいお年を。

 

元旦。そして滞在最終日。
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あけましておめでとう。おとうさんの車で、宿泊客みんなで、港まで初日の出を見にいく。


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最後の朝飯まできっちりうまい。

 

 

屋久島に一度来た人はね、必ずまた帰ってきてしまうんだよ」と去り際におとうさん。そういうものなのだろうか。俺は考え込む。

 

 


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小さな空港で、愛想という概念を忘れてしまったおばさん相手にトビウオ丼を注文する。そしてまた考える。屋久島は素晴らしいところであった。滞在中は常に充実していたし、自信を持って人におすすめもできる。ただ何というか、俺はやりきった感がある。この島で何かを我慢をしたり、諦めたり。譲り合いをしたり、順番待ちをしたり。そういったことからとにかく無縁であった。一度屋久島に来た人がまた来たいと思う気持ちは、少なからず満たされなさからくるものではないだろうか。その点俺は、何かをやり残したという感じがまるでしない。もちろん本当にいい季節の屋久島をいつか見てみたいという気持ちはあるけど。

 

ガイドブックによれば、屋久島は世界屈指の自然遺産の島。春は新緑がまぶしい。夏は海や川でも遊べる。秋は紅葉。あと冬は、あんまり人がいなくてちょっとぜいたくな気分です。

 

 

 

 

 

おとうさんおかあさんの宿はこちら。

yakushima-taguchi.jp

 

るるぶ屋久島 奄美 種子島'20 (るるぶ情報版地域)

るるぶ屋久島 奄美 種子島'20 (るるぶ情報版地域)

 
屋久島ブック2016

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